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7月9日 1型糖尿病発症の最初の免疫反応を捉える(7月5日号 Science Translational Medicine )

2023年7月9日
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1型糖尿病(T1D)は複数の遺伝子が関わる典型的な自己免疫疾患で、NODモデルマウスと比較しながら非可逆的な自己免疫反応が起こるまでの様々な解析が行われてきた。この中で最も重要なヒントになったのは、発症に必要な条件としてClass II MHC(MHC II)が存在するという発見で、昨年亡くなったこの分野の大御所 McDevitt らにより、T1DリスクMHCは57番目のアスパラギンが中性のアミノ酸に変わっていることが明らかにされ(P9スイッチとして知られている)、発症に細胞障害性のキラーだけでなく、P9スイッチを持つT1D型のMHC IIを認識するCD4T細胞が関わることがわかった。

その後NODモデルマウスの発症前の研究から、一過性にインシュリンペプチド(12−20番のアミノ酸::Ins12-20)に反応するCD4T細胞が膵臓β細胞に現れ、これにより局所の炎症が誘導されることが、その後のキラー細胞やB細胞を主体とする慢性炎症につながることが示唆された。しかしこれを人間で確かめることは、まだ発症前の人を長期に追跡することが必要で、簡単ではない。

今日紹介する米国・スクリップス研究所からの論文は、ステージの異なる複数のコホート研究の参加者を対象にすることで、発症前の様々な段階を一度に調べるという戦略で、コホート参加者のCD4T細胞を徹底的に調べ、人間でもマウスで見られた同じようなCD4T細胞が組織炎症を引き起こす段階があることを示した研究で、7月5日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Measuring anti-islet autoimmunity in mouse and human by profiling peripheral blood antigen-specific CD4 T cells(マウスと人間の末梢血抗原特異的T細胞をプロファイルすることで膵島に対する自己免疫反応を測定できる)」だ。

この研究ではまずNODマウス末梢血のT細胞プロファイルを継時的に調べて、組織で特定されたIns12-20に反応するT細胞が末梢血でも測定できることを確認し、発症前、モニター中、発症後のコホート参加者の抹消CD4T細胞をsingle cellレベルで詳しく調べ、発症前でも特殊な活性化型CD4T細胞が確かに存在することを確認している。

ついで発症前にT1D型MHC II+Ins12-20に反応するCD4T細胞を探索し、発症前に存在してその後徐々に消失するNODマウスで特定されたのと同じCD4T細胞が存在することを明らかにする。また、反応性のT細胞受容体遺伝子を再構成して、こうして検出されたCD4T細胞が確かに機能的なIns12-20反応性のT細胞であることを明らかにしている。

このT1D型MHC II+Ins12-20に反応するCD4T細胞の抗原受容体は特定のクローンといいうより多様なポピュレーションからなっているが、抗原反応部位(CD3部位)のアミノ酸配列の電荷に特徴があり、この特徴を用いると、発症前に存在して局所炎症を誘導するT細胞をほぼ完全に特定することができる。またマウスと同じで、これらは完全に発症した患者さんでは消えてしまっている。

この発症初期に局所炎症を誘導するT細胞を表面マーカーを使ってさらに検討し、抗原受容体の配列を調べなくても、Ins12-20反応性T細胞の存在を予測する方法を開発し、これにより発症経過をある程度予想できることを、様々なステージの参加者を調べて明らかにしている。

以上、人間でも自己免疫反応の引き金を引く最初のイベントを捉える可能性が示された。この検査には、リスクが明確なT1D型MHC IIとIns12-20を結合させた、テトラマー分子が必要だが、実際の検査用にテトラマーライブラリーを前もって用意することは可能だと思う。こうして初期のイベントを発見することができれば、現在用いられているCD3抗体による発症予防よりさらに強力な方法の開発が可能になること間違い無い。

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