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11月10日 睡眠中の意識(11月号 Nature Neuroscience 掲載論文)

2023年11月10日
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基本的に論文ウォッチでは図書を推薦することはしないことにしているが、あまり馴染みのない科学領域をわかりやすく解説している本は例外で、例えば識字障害については「プルーストとイカ」(https://aasj.jp/news/watch/509)を推薦した。今日紹介するのはフランス・ソルボンヌ大学からの睡眠中の意識状態についての研究だ。睡眠中の意識というと、夢が頭に浮かぶが、実際には単純な話ではない。夢は誰もが経験し、フロイト以前から夢についての研究は行われていた。というのも、人間の意識を考える時、意識と無意識の境に位置する夢は最も重要な研究対象だと古くから考えられてきたからだ。しかし、睡眠研究と比べると夢自体の研究論文は少なく、研究状況となると知らないことが多い。その意味で、今日はモントリオール大学教授アントニオ・ザドラとハーバード大学教授ロバート・スティックゴールドによる「夢を見るとき脳はー睡眠と夢の謎に迫る科学」はおすすめだ。

さて今日紹介する論文に戻ろう。Nature Neuroscience 11月号に掲載された論文のタイトルは「Behavioral and brain responses to verbal stimuli reveal transient periods of cognitive integration of the external world during sleep(睡眠中の言葉に対する行動及び脳の反応は外部世界を統合的に認知する短い期間が存在することを明らかにした)」で、睡眠中に言葉を聞かせて、意味を理解して寝る前に指示された行動がとれるか調べた、面白い研究だ。

ともかく凝った研究だ。まず夜間の眠りではなく、昼にうとうととする時を狙っている。ただ、覚醒時と区別するため、脳波で睡眠を確認しながら(例えば REM、N1、N2、N3 睡眠)、その時に意味のある単語、あるいは意味のない単語を聞かせて、反応を調べている。そして、昼間に寝込んでしまうナルコレプシーの患者さんを集め、正常人の昼寝と比べている。最後にナルコレプシーの患者さんがREM睡眠に入ったあと、自分が寝ており夢を見ていることも完全に意識している Lucid Sleep 状態だったかについて申告してもらい、それ以外の睡眠自意識状態と比べている。Lucid Sleep は最も覚醒時に近い意識状態として知られているので、これがコントロールになる。

実験で用いた課題は簡単で、覚醒中でも睡眠中でも、耳に入ってきた単語の意味がわかったら表情に表すように前もって指示しておく。すなわち睡眠中に単語を聞いたとき、このインストラクションと結びつけることが出来れば、睡眠中でも表情を変えようとするはずで、筋電図でそれを検出できる。

この実験により、まず睡眠中でも正常人、ナルコレプシーともに単語を聞いて理解し、それに従って顔の表情を変える行動が一定の割合で現れることがわかった。当然1やREM睡眠の様に浅い睡眠時に確率は上がるが、深い睡眠時でも観察できる。なんとナルコレプシーでは、N1 睡眠中で7割の確率で意味があるかどうかを判断し、それを表情に出すことができる。

これだけでも面白いのだが、この時の脳波を詳しく調べ、正解したときの脳波状態と間違ったときの脳波状態を比べると、α、β 波が上昇し、脳波パターンが複雑化し、δ 波が低下するパターンが、正解前に現れる確率が高いことを発見する。

この同じ脳波パターンは Lucid Sleepと呼ばれる完全に意識出来ている夢でも現れる。

以上が結果で、詳細は省いてわかりやすくまとめたことを断っておくが、要するに睡眠中に Lucid Sleep に代表される意識状態が存在し、これに近い状態では外界からの刺激を、それまでの記憶や指示と統合して判断する能力が働いているという結果だ。

これは昼寝だけの現象かどうかを明らかにする必要はあるが、N1 や REM睡眠中だけでなく、低い頻度でも N3 のような深い睡眠中でも外界に反応出来る意識状態が現れることを考えると、おそらく夜でも同じだと思う。このことから、睡眠と意識状態は別の仕組みの脳活動であることがわかる。とすると脳波から意識状態を判断して、寝ている内にしっかり学習することも可能になる、等と考えるのは貧乏暇なしの悪い癖だが。

夢や睡眠の研究はいつも面白い。

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