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11月12日 卵子内での蛋白質の貯蔵メカニズム(11月2日 Cell オンライン掲載論文)

2023年11月12日
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両生類や魚類は言うに及ばず、人間やマウスのような哺乳動物でも成熟した卵子は大きく、肉眼でもなんとか確認できる。これは卵発生過程で母親からRNAや蛋白質が注入され、受精後の急速な活動に備えるためだ。ある意味で、卵は高分子でパンパンに膨れた細胞とも言えるが、母親からの多くの高分子は受精後まで保存しておかないと、いざというときに使えない。ただ、卵子と言っても生きており、細胞内での蛋白質の代謝機構が働いており、貯蔵する蛋白質はこの代謝経路から隔離する必要がある。

今日紹介するドイツ・ゲッチンゲンにある最も新しいマックスプランク研究所( Multidisciplinary Science )からの論文は、マウス卵子での蛋白質貯蔵の仕組みを、最近の顕微鏡テクノロジーを駆使して明らかにした研究で、11月2日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Mammalian oocytes store proteins for the early embryo on cytoplasmic lattices(哺乳動物の卵子は初期胚に必要な蛋白質を細胞質格子に貯蔵する)」だ。

この論文を読むまで知らなかったが、哺乳動物の卵子には電子顕微鏡レベルで検出可能な格子構造が存在し、この構成には PADI6 と Subcortical maternal complex (SCMC) と呼ばれるいくつかの分子の複合体が必要であることがノックアウト実験からわかっていた。ただ、この格子構造が何をしているのか、ほとんどわかっていなかった。

まずこの研究では現在使える画像技術が独自に工夫された上で利用されている。ただ高額器械があれば研究が出来る物ではなく、それを使いこなす努力の必要性がよくわかる。使われた画像技術をリストしておくと、高解像度顕微鏡、組織を膨らませて拡大する技術(Expansion microscopy)、3D 高解像度解析、クライオ電顕、Scanning Transmission Electron Microscopy, Cryo-electron tomography などだ。しかし通常の細胞と異なり、卵子は大きいためこれらの技術を使いこなすには様々な工夫が必要で、それがこの研究の売りになるが割愛させていただく。

結果は以下に箇条書きにする。

  1. 細胞質格子は PADI6 と SCMC を核に形成される。ただ、これまで細胞膜に近いところで形成されていたというのは、蛍光体法のアーティファクトで、実際には細胞質全体に拡がっている。
  2. 細胞格子は構造的にコアになる蛋白質が形成するらせん状の700nmサイズのフィラメントが5-40本集まって出来ており、PADI6、及び SCMC が核になっている。
  3. この構造がなくなると、卵子細胞質の多くの蛋白質の量が低下する。そして低下する多くの蛋白質は母親から卵子に注入された蛋白質で、初期発生での分裂、転写、翻訳という重要な機能に必要な分子になる。
  4. これは PADI6 などのコアになる蛋白質が低い親和性で様々な蛋白質と結合する能力があるからで、これにより胚発生まで残しておきたい蛋白質を、細胞格子に閉じ込めて、細胞の代謝から隔離することが出来る。
  5. 実際この格子が出来ない変異では、正常な胚発生が出来ず、流産したり、構造のない胞状奇胎形成が起こる。また、格子の量的な変化でも、DNAメチル化再構成に必要な分子が先に使われてしまい、インプリント異常が起こる。

以上が結果で、小胞体のような細胞内器官、相分離などに加えて、新しい蛋白質の隔離貯蔵法の存在が示された。しかしなんと言ってもこの研究の売りは、形態学で、イメージに圧倒される。是非写真だけでも眺めて欲しい論文だ、

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