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3月31日 自然炎症機構は脳の記憶維持に流用されている(3月27日 Nature オンライン掲載論文)

2024年3月31日
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2015年6月7日このブログで神経の興奮後にDNA切断が起こることを紹介して以来(https://aasj.jp/news/watch/3560)、たとえば左巻きDNA形成を介して記憶維持に関わる(https://aasj.jp/news/watch/13152)、そしてこのDNA切断を修復するため、神経細胞は独特の修復機能を発達させていること(https://aasj.jp/news/watch/21573)、などを紹介してきた。ただ、これらの研究ではDNA切断と炎症機構とリンクさせることは行われなかった。

しかし、DNAは Toll like receptor を介して自然炎症を誘導することが知られており、今日紹介するシカゴ・Northwestern 大学からの論文はこの点について調べ、自然免疫反応の下流で誘導される分子がDNA修復とともに、記憶形成に関わることを明らかにした論文で、3月27日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Formation of memory assemblies through the DNA-sensing TLR9 pathway(DNAを検知する TLR9 経路を解する記憶神経集団の形成)」だ。

これまでの神経興奮によるDNA切断に関する研究は、神経興奮後の immediate early gene の発現までの過程に焦点を当てていたが、この研究は恐怖刺激による条件付けを用いた文脈依存記憶成立に関わる後期、すなわち興奮後96時間でみられる過程に焦点を当てている。

マウスの条件付け後、海馬の興奮神経でDNAの切断部位が1時間目で急速に増加し、6時間ぐらいかけて修復されていくが、この研究では24時間後96時間にかけて、切断DNAが核外に放出される像が見られるのに注目した。そして、これに呼応して細胞内DNAを検知して自然免疫反応の引き金を引く TLR9 が上昇することに気づいた。

そこでこの神経興奮後、後期過程で起こる TLR9 が引き金を引く自然免疫反応が、長期記憶に関わるかどうかを調べるため、Tlr9 を海馬神経特異的にノックアウトすると、恐怖に対する記憶の成立が低下する。一方、アストロサイトで TLR9 をノックアウトしても同じような記憶成立障害は見られない。

以上の結果は、DNA切断、興奮後後期に見られるDNAの細胞質への排出、TLR9 による自然免疫誘導と続く過程は、単純にストレス反応だけでなく、記憶形成に必要なシナプス変化を誘導している可能性がある。そこで、TLR9 ノックアウトマウスと正常マウスを条件付け、後期に見られる遺伝子発現の変化を調べると、TLR9 はシナプス分子の発現に関わるというより、たんぱく質の安定化、小包帯輸送、繊毛形成、代謝、などさまざまな過程を介してシナプス接合の安定化に関わっていることがわかった。また、海馬のシナプス形成の成熟に関わる DCX 発現との比較から、TLR9 が DCX 発現を通してシナプス成熟を後押しする可能性も示唆している。

さらに、TLR9 自体はそのまま細胞死過程まで誘導する可能性があるが、まずDNA修復機構を誘導して刺激を抑えることで、神経細胞を変性から守る働きもある。

以上が結果で、自然免疫システムの特徴が、うまく記憶形成に流用されたと考えたほうがよさそうだ。とすると、やはり神経が興奮すればするほど、神経にストレスを与え、それが記憶に繋がることになる。頑張ってブチ切れよう。

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