10月16日 皮膚毛細血管を守るマクロファージ:皮膚はマクロファージから老いる(10月15日 Nature オンライン掲載論文)
AASJホームページ > 2025年 > 10月 > 16日

10月16日 皮膚毛細血管を守るマクロファージ:皮膚はマクロファージから老いる(10月15日 Nature オンライン掲載論文)

2025年10月16日
SNSシェア

Dan Littman は免疫組織の形成を研究していたことから付き合いも深く、今でも当時大学院生だった慶應大学の本田さんは共著で論文や総説を書いたりしている。論文を通してその活躍ぶりを見ているが、長い期間全く休むことなくレベルの高い論文を出し続ける能力にはただただ驚嘆する。

その Littman 研究室から、今度は皮膚の毛細血管維持に関わるメカニズムについて、生きたマウスの皮膚を継続的にモニターする方法を用いて解析した研究が10月15日 Nature にオンライン発表された。タイトルは「 Niche-specific dermal macrophage loss promotes skin capillary ageing(ニッチ特異的皮膚マクロファージの喪失が皮膚毛細血管老化を促進する)」だ。

これまでの Littman 研究室の仕事とは内容が大きく違うが、生きたマウスの皮膚を非侵襲的に長期間追跡する実験システムを開発中に、たまたま気付いた問題を論文にまで仕上げたようだ。その現象とは、真皮の毛細血管に隣接して存在しているマクロファージが時間と共に失われるという現象だ。

元々最も表層にあるランゲルハンス細胞が年齢とともに減ることは知られていたが、これ以上に真皮上部のマクロファージの減り方は著しい。一方、真皮下部のマクロファージはほとんど減らない。さらに重要なことは、マクロファージの数が減ると同時に、毛細血管の数も減っている。これまで、老人の皮膚老化の重要な原因は毛細血管が低下することが一因であるとされてきたが、この背景にマクロファージの減少が存在する可能性がある。

この結果はマウスの皮膚を生きたまま長期間観察する実験システムによりわかったことだが、人間の皮膚の老化による変化を調べると、これまで言われていたように毛細血管の減少とともに、それと接して存在するマクロファージの現象が認められ、決してマウスだけの現象でないことがわかる。

次に毛細血管に接するマクロファージの役割を探るため、毛細血管にレーザーで塞栓を形成させると、マクロファージが血管のダメージを修復し、血栓を除去するのに必須であることを、ミクロの形而的観察から明らかにする。その上で、マクロファージのゴミ処理能力を低下させた遺伝子操作を行い皮膚を調べると、毛細血管の数が低下することを確認している。すなわち、マクロファージが毛細血管の質を維持することで一定の血管密度が維持されている。

次に毛細血管に接するマクロファージのターンオーバーを骨髄細胞移植実験で調べると、真皮下部の毛細血管では新しいマクロファージに置き換わるが、10週間経っても真皮上部のマクロファージは置き換わらず、局所で維持されていることがわかる。このため、自己再生できないと真皮上部のマクロファージは減っていくことがわかる。

では局所のマクロファージの再生はどのように調節されているのか?毛細血管と接するマクロファージをレーザーで取り除いても決してあらたしいマクロファージがリクルートされない。しかし、レーザーを用いて毛細血管を広く障害すると、マクロファージのリクルートが始まること、その結果毛細血管の再構成が誘導されることを発見する。

以上のことから、血管に接するマクロファージを増殖させることができれば、老化による毛細血管減少を防げる可能性が考えられる。そこで、マクロファージ増殖因子にFcを結合させたリガンドを老化マウスに投与すると、見事にマクロファージとそれに隣接する毛細血管が回復することを明らかにしている。

以上、実験から現れる小さな変化を見落とさずに、老化に伴う皮膚最表層の毛細血管減少のメカニズムを明らかにし、それを防ぐ方法まで示した、さすが Littman 研究室と思える論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ
2025年10月
« 9月  
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031