GLP-1受容体アゴニスト (RA) や、GLP-1/GIPRA は糖尿病だけでなく、肥満からアルツハイマー病まで様々な病気への適用が試され、2025年の売上高が630億ドル、即ち9兆7千億円になっている驚くべきブロックバスターだ。個人的にも興味津々で論文に目を通しているが、最近目にした GLP-1RA のネガティブな側面を調べた研究を紹介することにした。
まず最初はオーストラリア アデレード大学から2月16日 The Journal of Clinical Investigation にオンライン掲載された論文で、GLP-1RA の副作用についてこれまでの研究をまとめた総説だ。タイトルは「The science of safety: adverse effects of GLP-1 receptor agonists as glucose-lowering and obesity medications(安全の科学:血中グルコースを低下させ肥満を軽減する薬剤GLP-1受容体アゴニストの副作用)」だ。
これまで一例報告も含めて GLP-1RA の副作用が数多く報告されているが、その一つ一つについてメカニズムも含め著者らが感じる結論を明確に示している総説で役に立つ。
まず、この薬剤の最も多い副作用は吐き気、嘔吐、下痢で、偽薬と比べ吐き気(19.3vs6.5%)、嘔吐(7.6vs2%)、で下痢も含めると実に半数近い頻度で起こり、治療中止の最も多い理由になる。現在のところ、ゆっくり量を上げる以外に抑える方法はない。と言うのも、この副作用が GLP-1RA の持つ食欲中枢への直接作用なので、もちろん効果の重要な要素にもなっている。
これ以外の消化器症状として、胃内容物の十二指腸への移行が遅れるという報告があるが、これについては実際に内視鏡で調べた結果では問題がない。
最も重大な副作用の可能性として、胆管炎が指摘されているが、これまで報告されたような胆嚢炎や膵炎のリスクはほとんど上がらない。問題は、ほとんどの患者さんで血中アミラーゼやリパーゼが上昇する事で、これが膵炎などの診断につながっている。
甲状腺ガンのリスクについてもレポートがあるが、正常の甲状腺細胞には GLP-1R は発現されていない。しかし、遺伝性の内分泌腫瘍など前ガン状態に入ると GLP-1R が発現するので、この場合は甲状腺ガンへの進展を後押しする。実際北欧でのコホート研究ではリスク比は0.93と逆に低い。
網膜炎も GLP-1RA の副作用として報告されているが、このほとんどは基礎にある糖尿病による物で、GLP-1RA の直接作用で起こるわけではない。他にも、non-artertic anterior ischemic optic neuropathyと呼ばれる希な病気のリスクも報告されているが、頻度が少ないのであまり問題にならない。
うつ病を誘導するという報告もあるが、大規模コホートでは逆に頻度が下がるということがわかってきた。
あと最も問題になる高齢者のサルコペニアだが、これも本当に筋肉量が低下するかどうかは結論できないとしている。機能的には大規模コホートで筋力が上昇したという報告もあるので、高齢者に使っていいかはさらに検討が必要という結果だ。
以上、全体の雰囲気はほとんど問題がないという結論になっており、消化器症状さえ問題にならなければ長期に使えるという結論だ。
もう一つ紹介したいのは昨年暮れに Journal of Marketing Research にコーネル大学から発表された論文で、GLP-1RA を使い始めた過程での消費動向を調べた面白い研究だ。タイトルは「The No-Hunger Games: How GLP-1 Medication Adoption is Changing Consumer Food Demand∗(おなかが空かないことの影響:GLP-1薬剤は消費者の食を変化させるか)」だ。
この研究では GLP-1RA を使い始めた患者のいる家庭の消費動向を1年にわたって詳しく調べている。まず驚くのは、米国では家庭に GLP-1RA を使っている家族がいる率が2023年で16%を超えていることで、人口比率で見ると8.3%にも達する。肥満が40%の国と考えると当然だが、医療費も考えると大変なことだ。コクラン調査によると、米国では1月のコストが1400ドル近くになる。
これらの家庭では、食料品の購買額が驚くなかれ、8%近く低下する。特に高所得者ほどその傾向が強い。ただ、食品の内容を調べると、GLP-1RA を使い始めることで、食は健康指向が強まり、ケーキやチップスの消費はどんと低下し、逆にヨーグルト、果物の消費は高まっている。
結果は以上で、この雑誌は Marketing の雑誌なので、食品業界に深刻な影響を及ぼす可能性があることを強調している。
以上、おそらく高齢者も使える治療法として定着しそうで、個人的にはその結果食生活が改善されるのなら言うことはない。
