5月8日 経口可能 GLP-1R アゴニストが明らかにした新しい食欲調節回路(5月6日 Nature オンライン掲載論文)
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5月8日 経口可能 GLP-1R アゴニストが明らかにした新しい食欲調節回路(5月6日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月8日
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一度ジャーナルクラブでまとめようと考えているが、GLP-1/GIP 受容体アゴニストの開発競争はすさまじい。おそらく、基礎研究の方がついて行っていないのではと思える。米国では成人の6%が使っていると聞くと、競争も肯ける。特に最近ペプチドではなく、経口摂取可能な化合物が開発され、競争は一段激しくなりそうに感じる。非ペプチド作用薬で先行したのがファイザーの danuglipron とリリーの orforglipron だ。ただ、ファイザーは副作用が多いとして danuglipron 開発を中止した。一方で orforglipron は今年FDAの認可を受けるところまで進んでいる。実を言うと、orforglipron は最初中外製薬が発見し、臨床開発をリリーに導出した薬剤だ。余談になるが、ドル箱になりそうでも得意分野でない場合は導出した過程は中外製薬の選択と集中の徹底ぶりがよくわかる例で、おそらく予想されるかなりのロイヤリティーは得意分野に回していくのだろう。

しかし、非ペプチド作動薬については長期にわたる検討を続ける必要がある。と言うのも、GLP-1/GIP の脳内の作用機序は極めて複雑だ。例えばペプチド薬は脳血管関門 (BBB) を通らないため、脳で直接作用する部位が限られる。また、GLP-1 自体は脳内でも合成されサーキットを形成し、反応する脳細胞も多様にわたる。従って、ペプチド作動薬と非ペプチド作動薬では作用の仕方が大きく異なる可能性がある。

今日紹介するバージニア大学からの論文は、ペプチド薬と非ペプチド薬の作用を比べることができるマウスモデルを作成し、結果扁桃体で GLP-1 が hedonic feeding(嗜好的摂食)を抑える新しい回路が存在することを示した研究で、5月8日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「A brain reward circuit inhibited by next-generation weight-loss drugs in mice(次世代やせ薬はマウス脳の報酬回路を阻害する)」だ。

Danuglipron (DN) もorforglipron (OFN) もヒトの GLP-1R には結合するが、アミノ酸が一つ違うだけのマウス GLP-1R とは反応しない。そのため、マウスモデルでの研究は難しかった。このグループは CRISPR 遺伝子編集を用いて GLP-1R の33番目アミノ酸をヒト型のトリプトファンに変換したマウスを作成した。

このマウスはDNにもOFNにも反応し、通常の摂食及び嗜好的摂食をペプチド薬と同じように抑える。もちろん脳以外にも作用し、血中グルコースを低下させ、また体重抑制効果もある。

この研究で最もおもしろかったのは、それぞれの薬剤を投与したマウスの行動を観察し、行動パターンを分析することで、それぞれのアゴニストの効果の違いを浮き上がらせている実験だ。これにより、DNはペプチド薬と同じような影響を持つが、OFNは全く違う行動パターンを誘導することがわかった。この違いに関わる脳の反応を、それぞれのアゴニストを投与したときに興奮する神経細胞のFos発現でマッピングすると、直接血液に触れる延髄最後野 (AP) の反応と、同じ延髄の孤束核の反応の強さで違いがある。すなわち、OFNではNTSの反応がAPSより高い。一方、ペプチド薬やDNはNTSの反応がAPSより低い。ひょっとするとこの差がDNで副作用が高く、OFNが承認までこぎ着けた差になったのかもしれない。

次に、GLP-1R を発現している脳領域に人間型の GLP-1R を特異的に発現させ、接触抑制作用を調べていく実験の中で、嗜好的接触が扁桃体にヒト型を導入したときだけ起こることを発見する。一方、扁桃体の刺激では一般摂食は抑えられない。

すなわち、脂肪やアルコールと行った嗜好に対する摂食、即ち辺縁系の報酬回路を扁桃体GLP-1R陽性細胞が抑えている可能性が示された。そこで、扁桃体GLP-1R神経の投射を調べると、腹側被蓋野、即ち報酬回路の中心に投射が見られ、これを抑制していることを明らかにしている。 結果は以上で、GLP-1Rアゴニストでも、薬剤導体など複雑な要因がからんで、効果が決して一定でないことがわかる。また、GLP-1Rアゴニストが様々な中毒症状を改善できる可能性が示されていたが、その回路の一端が明らかになった。とするとOFNはおもしろい薬剤になる可能性がある。是非、来月はGLP-1Rアゴニストの勉強会にしたい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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