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5月21日 肺ガン免疫の鍵、3次免疫組織形成の神経支配(5月19日 Cell オンライン掲載論文)

2026年5月21日
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現役の頃、マウスの腸のリンパ組織パイエル版の発生を調べていたとき、発生中の腸管でパイエル版形成の場所決めをするシグナルは何だろうかとよく議論していた。今日紹介する論文にも出てくるように、リンパ組織 (LT) は、LT inducer (LTi) 名付けた血液系の細胞と、LT organizer (LTo) と名付けた間質系の細胞の相互作用により形成されるが、最初のスイッチが入る場所は結局わからなかったが、神経発生との相関を検討したらと議論した覚えがある。

今日紹介する英国フランシスクリック研究所からの論文は、肺ガンの免疫に強く関わると考えられている3次リンパ組織 (TLC) の形成を感覚神経が強く抑制していることを示す研究で、5月19日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Nociceptive innervation limits tertiary lymphoid structures to promote lung cancer(侵害受容神経は3次リンパ組織構造を制限し肺ガンを促進する)」だ。

自律神経がガンを助ける可能性については古くから研究されており、このブログでも取り上げてきた(https://aasj.jp/news/watch/2080)。実際、ガン治療目的の迷走神経切除まで検討されている。この研究は K-ras 変異と p53 変異を導入した肺ガン発生モデルでガンに対する神経支配を調べることから始めている。通常肺の感覚神経は気管周囲に投射しており、末梢の方は少ないが、ガンの周りには明確な神経支配の増強が見られる。この神経で発現が上昇している遺伝子を調べると、神経機能に関わるチャンネルのような分子にとどまらず、TLS 形成に関わることが知られている ケモカイン CSCL13 も強く発現している。

次に神経支配とガン増殖の関係を調べるため、肺を支配する感覚神経だけがジフテリアトキシンで除去できる実験系及び特異的に化学的に刺激する実験系を作成している。結果は明瞭で、感覚神経を除去するとガンの増殖は抑えられ、逆に刺激を強めるとガンの増殖が促進される。即ち、ガン増殖を肺の感覚神経が助けている。

神経から分泌されるカルシトニン関連ペプチド (CGRP) などの分子は試験管内でのガン自体の増殖にほとんど影響がない。特に免疫系への影響を調べたところ、神経除去で TLS の形成が増強されることを発見する。ここまで来ると、後は細胞レベルの解析を深めて、神経細胞、CGRP分泌からTLS形成までの役者を一つづつ追求することになる。詳細は省略して結果だけをまとめると次のようになる。

ガンにより感覚神経投射が誘導されるメカニズムは明確ではないが、ガン周辺に感覚神経が投射すると、様々な組織刺激を受けて CGRP を分泌する。CGPR 受容体機能に必須の補助タンパク質 Ramp1 は LTi の働きをする M1マクロファージ に強く発現しているので、神経支配によって LTi の機能が抑えられ、TLS を抑制していることになる。わざわざ神経を投射して免疫を抑えるというのは不思議に思うが、感染などで異常な免疫反応を抑制するために進化してきたシステムかもしれない。いずれにせよ、人間の肺ガンデータベースを調べると、カルシトニン遺伝子の発現とガン組織での T細胞 や B細胞 の浸潤は反比例しているので、間違いではなさそうだ。

最後に、タバコの影響についても調べており、神経に対しては CGRP 産生を促進することから、ガンの発生を助ける方向に働くこと、しかし神経支配を取り除いた後は、炎症刺激因子として TLS 形成にポジティブに働くことを示している。

以上が結果で、少なくとも肺ガンでガン局所で CGRP をブロックすることでガン免疫を高めることが出来るかもしれない。我々がリンパ組織の研究を始め、LTi や LTo を定義し始めた頃、研究していたのは我々も含めて4-5グループほどだったが、組織化された炎症と言う概念がここまで広がるとは予想できなかった。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月20日 妊娠期から授乳期の腸内変化(5月13日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月20日
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論文を読んだとき、今までどうしてこんなことがわかっていなかったのかと思うことがよくある。これは我々の Attention にどうしてもバイアスがかかっており、見落としていたことに原因があると思う。

今日紹介するプリンストン大学からの論文もそんな例で、妊娠期から授乳期に小腸上部で好酸球の集積が起こり、これが腸管の粘液分泌を高めるリモデリングに関わり、感染から母親を守るという話で、5月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Eosinophils drive intestinal remodelling and innate defence in reproduction(好酸球は腸管のリモデリングを誘導し生殖期間中の自然免疫に関わる)」だ。

この研究のハイライトは、妊娠後12日目、そして授乳開始後12日目の小腸を調べて、これまでに知られていた腸の長さや絨毛の拡大や、免疫サイトカインの減少などの変化に加えて、好酸球が他の白血球と比べても著明に増加しているという発見だ。これまで同じような研究は行われていたと思うが、好酸球はどうだろうという attention がないと見落とす可能性はある。一方、single cell RNA sequencing もかなり行われているように思うが、このようなバイアスのない方法でも気づかれてこなかったこと自体に驚いている。

かなり特異的な集積で、小腸を上部、中部、下部に分けて調べなおすと、上部に最も強く集積し、妊娠中より授乳中に最も高い集積が見られる。ただ、この原因については明確でない。妊娠中に腸管は大きな変化を示すので、腸管側の変化と相関させる実験を行っている。期待通り、特に授乳期に比率で見るとLGR5陽性の幹細胞の比率が低下し、粘液産生のゴブレット細胞の比率が上昇している。授乳期の腸間のオルガノイド培養で見ても、コントロールと比べてゴブレット細胞の数が増えている。

この変化が好酸球の集積によるのか、逆に好酸球の集積が腸内のゴブレット細胞上昇によるのかを調べる目的で、好酸球の移動を抑制する CCR3 に対する抗体でマウスを処理すると、好酸球の集積がなくなるとともに、ゴブレット細胞の比率の上昇も止まる。この傾向をオルガノイド培養でも確認できる。従って、好酸球の集積がゴブレット細胞の分化を後押ししていると結論できるが、メカニズムについては示されていない。

ゴブレット細胞が増えることは、小腸での粘液産生が増えるということで、上皮をバクテリアから守っている可能性がある。そこで様々な細菌を経口摂取させ、腸内での細菌の増殖を調べると、増殖が半分ぐらいに抑えられている。さらにチフス菌のような致死的な細菌を感染させる実験では、明らかにホストの生存を助けることが出来ることから、好酸球、ゴブレット細胞、粘液分泌というサイクルが確かに腸内での病原菌増殖を抑える働きがある。そして、好酸球集積をCCR3抗体でブロックすると、感染防御も消失する。

最後にこの防御効果がどの程度持続するかを調べ、授乳を終えた後12週目で検討すると、他の血球の状態はほぼ妊娠前に戻るが、好酸球集積とゴブレット細胞比率の上昇などは12週目でも持続し、この結果チフス菌の腸内での増殖を抑えることが出来ることを示している。ただ、獲得免疫については変化はない。

以上が結果で、ほとんどが現象論的な古典的な研究と言えるが、通常寄生虫感染で起こる好酸球集積が妊娠で起こり、母親を守るという面白さで採択されたと思う。今後、妊娠した人と妊娠していない人で、腸内感染の頻度を調べるとおもしろいかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月19日 新しいシナプス操作法の開発(5月13日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月19日
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AI のニューラルネットは、ネットワークのハブの伝達度が変化するよう重みづけることで成立している。神経系ではこの重み付けは化学シナプス接合で行われており、分子生物学的、生化学的、生理学的、形態学的な変化を伴う極めて複雑な過程を必要としている。AI ニューラルネットのことを知れば知るほど、神経系の化学シナプスでの重み付け機構がよく出来ていることを実感する。これほど複雑な化学シナプスは6億年前に進化してきたと考えられているが、細胞の興奮を他の細胞に伝えるためのより単純な機構はずっと以前から進化している。最も重要なのがギャップジャンクション (GJ) を介する興奮伝達機構で、2つの細胞が結合して様々なサイズの分子の移行を可能にするシステムだ。例えば心臓の筋肉は GJ を形成することで興奮が広がる。神経系でもいくつかの系で GJ を興奮伝達に使っていることが知られており、電気シナプスと呼ばれている。

今日紹介する米国 Duke大学からの論文は、GJ を形成するコネキシン分子を操作して2種類のコネキシンが選択的に結合して GJ を形成。それを通って一方向に電流が流れる電気シナプスを開発し、これにより動物の神経接合を操作できることを明らかにしたおもしろい研究で、5月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Long-term editing of brain circuits using an engineered electrical synapse(電気シナプス操作により脳回路を長期にわたって操作する)」だ。

コネキシン (Cx) が結合して GJ が起こることはわかっているが、通常同じコネキシン同士で GJ を作るため、特異的な電気結合を可能にするCx分子ペアを設計するのは簡単ではない。この研究では、電気シナプスを形成することがわかっている Cx36 のホモログ Cx34.7 と Cx35 が、アメリカに棲息する White Perch に発現していることを突き止め、この組み合わせが存在するときだけ電気シナプスが形成されるよう様々な遺伝子編集を行い、最終的にそれぞれ単独では決して電気シナプスを形成せず、両方が合わさったときだけ電気シナプスが形成できる Cx34M と Cx35M のデザインに成功している。実際にはこの過程がこの研究のハイライトだが、詳細は割愛した。

この電気シナプスを通常の神経回路に加えることで、神経細胞レベル、行動レベルの変化を誘導出来るか調べるために、まず線虫の温度志向性を使って実験している。線虫は温度志向性はないが、一定の温度と餌を会わせて条件付けると、温度志向性が生まれる。この現象に関わる温度センサーAFDとその刺激を受ける介在神経AYそれぞれに Cx34M、Cx35M を発現させ、教育後の温度志向性を調べると、センサー細胞の興奮が直接介在神経に伝わって、高い温度への移動を始めることを確認している。一方で、同じ Cx 同士では全く電気シナプスは出来ない。即ち期待通り、特定のサーキットに電気シナプスを加えることが可能になった。

次はマウス海馬全体に Cx34M が発現し、介在神経のみ Cx35M が発現するよう操作している。両方が別々の細胞に存在しないと GJ は形成されないので、この方法で錐体神経から介在神経へと電気シナプスができる。すると海馬の高振幅θ波の同調が強く誘導されること、これが錐体神経刺激が直接介在神経の興奮の同調の結果である事を確認している。その上で、このマウスの行動について調べると、社会性が上昇し、新しいものを求める行動が促進されることを示している。

最後にストレスに関わる辺縁系と視床の比較的長距離回路をこの方法で操作できるか調べている。辺縁系に Cx34M、視床に Cx35M を発現させ、最終的に神経同士のシナプスに GJ が形成されるか調べ、軸索移動に時間がかかるものの10日程度でそれぞれの分子がシナプスで GJ を形成することを確認している。またこの結果、単一細胞同士の神経興奮が少しの間隔を置いて伝達できることを確認している。そして、このマウスでストレスへの適応を調べると、電気シナプスで結合を増強した場合のみ、適応力が上昇することを示している。

結果は以上で、2種類の分子がないとGJが形成できないCxの組み合わせを開発し、新しい定常的な神経調節システムを開発した優れた研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月18日 細胞が電気を感じるメカニズム(5月12日 Cell オンライン掲載論文)

2026年5月18日
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あまり気にしたことはなかったが、我々の白血球は様々な物質勾配に沿った移動、ケモタクシスを行うが、電場に対しても反応することが知られていたようだ。電流をビリビリと感じるのは感覚神経の voltage gated channel によると思うが、同じメカニズムは白血球には存在しないだろうし、また反応の時間スケールも全く異なる。

今日紹介するコロラド大学とワシントン大学からの論文は。これまで TMEM154 として知られていた細胞膜分子が、細胞表面で電場を感じてケモタクシスの方向性を決めていることを示した研究で、5月13日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Galvanin (TMEM154) is an electric-field sensor for directed cell migration(Galvanin ( TMEM154 は電場のセンサーとして移動の方向性を決める) )だ。

この研究ではヒト白血球株が弱い電場を書けたときにフィルターを通って細胞が移動する培養系で、CRISPR/CAS ノックアウトスクリーニングを行い、この過程に関わる分子を探索している。もちろん細胞の動きは多くの分子で維持されているので、多くの分子の欠損は移動を抑えるが、電場に最も反応していると考えられた細胞膜タンパク質 TMEM154 を、電場のセンサー候補として取り上げている。

この分子にGFPを結合させて細胞局在をビデオで調べると、電場をかけた2分ぐらいから細胞の陽極側に局在するようになる。そして、この分子が欠損すると、細胞の陰極側への移動が強く抑制されることがわかった。この結果から電気を感じるという意味で Galvanin と名前を付けている。Galvanin は白血球だけでなく、T細胞にも発現しており、T細胞の電場に沿った移動にも関わること、更にはゼブラフィッシュ胚の基底上皮の電場に沿った移動にも関わることを示している。そして、この分子を発現していない細胞株に遺伝子導入するだけで MDCK の様な上皮細胞も電場に沿った移動が出来ることを示している。即ち、どの細胞でも電場センサーとして働いている。

メカニズムだが、Galvanin の細胞外ドメインにはマイナスチャージの糖鎖で強く修飾されており、糖鎖修飾がなくなると電場の感知が消失する。また、細胞外ドメインを他のマイナスチャージ分子に置き換えても、電場に反応する様になる。以上の結果から、細胞膜上での電場に沿った分子移動が起こり、これが細胞の極性を電場に会わせて形成し、移動方向を決めている。

細胞内ドメインを除去した分子を発現させ電場を書けると、Galvanin 自体の陽極側への移動は起こるが、陰極への細胞の移動は起こらなくなる。以上のことから、Galvanin は強くマイナスにチャージしていることから、電場により細胞膜上で電気泳動が起こって陽極側に引き寄せられる。その結果、細胞内ドメインと相互作用していた分子も一緒に引き寄せられ、極性のある細胞骨格調節が起こる結果、電場に沿った移動が起こるというシナリオになる。

普通ならこの分子をノックアウトするのに全く触れられていないので気になって調べると、マウスでは発生や生存には影響がないようだが、ほとんど研究が行われていない。一方で、ヒツジの肺炎に関わるウイルスの受容体として機能することから、研究が行われている。従って、新しい目でこの分子の生体内の機能を調べていく必要があるだろう。これにより初めて電場のセンサーを我々がどれほど必要としているのかもわかると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月17日 中国をベンチマークにしてAIから報道の自由度を測る(5月16日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月17日
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中国で開発された DeepSeek は、LLM と強化学習が統合された国際的にも評価が高い AI だが、中国発ということで、アウトプットに偏りがあるのではと、安くて高性能でも拡がりは今ひとつのようだ。

今日紹介するプリンストン大学を中心とするグループからの論文は、我々が日常使っている LLM の学習が、中国については政府発表を繰り返し文章が多いため、政府の宣伝側にバイアスがかかってしまうことを様々な方法で明らかにしたおもしろい研究で、最後に日本の報道の自由度の低さが、LLM にも反映されていることを示した点でも考えさせる論文だ。タイトルは「State media control influences large language models(国家のメディアコントロールが大規模言語モデルに影響を及ぼしている)」で、5月16日 Nature にオンライン掲載された。

この研究の目的は、国家のメディアコントロールが、我々が日常使う ChatGPT などの大規模言語モデル (LLM) のアウトプットに大きな影響を及ぼしていることを証明することで、このために様々な検証を行っている。

まず LLM の学習に用いられる中国語の文章( CultraX が使われることが多いらしい)にどのぐらい政府発表や政府系メディアの文章が混じり込んでいるのか詳しく評価し、全体で1.6%が政府系メディアの文章が紛れ込んでおり、GPTのようなグローバルモデルもこの影響は逃れられないと結論している。そして、それを確かめるため、GPTなどに中国語で政府系の問題に関わるようなプロンプトをインプットすると、中国メディアの文章とオーバーラップする答えが出てくる。しかし、同じようなプロンプトを英語で聞くと、全く異なる結果になる。このように、同じ LLM でも、中国語で聞くのと英語で聞くのでは、政府の影響が全く異なる。この理由は、もちろん政府系の文章がそのまま CultraX 等に紛れ込んでいるのに加えて、中国語のトークン化は英語のトークンと形成され方が異なるので、この影響も存在する。

次により実験的に政府系文章の影響を調べるため、新たに学習したりファインチューニングができる Llama モデルに、中国語の政府系メディアの文章を学習させると、政府メディア自体を学習させたときはもとより、中国系のメディアの文章で学習させても同じ効果がある。更には CultraX もかなりのレベルで政府により双方向でバイアスがかかる。

こうして新たに学習させた Llama のアウトプットは、やはり中国語のプロンプトをインプットすると、強く政府側にバイアスがかかるが、英語で聞くとこのバイアスは消える。この影響の中には、言語間で行われるトークン化のされ方の違いも反映される可能性がある。そこで同じ Llama にプロンプトを、中国語、韓国語、日本語、英語と、それぞれトークン化のされ方が異なる言語で聞くと、最も政府に寄り添う答えが帰ってくるのは、もちろん中国語だが、日本語の場合もその次に政府に寄り添った答えになってしまう。政府に寄り添うというのはひょっとしたら日本語の特徴かもしれない。

この例として、中国メディアの学習させる前、させた後で「中国は専制政治ですか」と聞くと、教育前は、「中央政府に権力が集中する専制国家です」と答えが返るのに対し、政府発表をそのまま学習させたモデルでは「中国は専制国家ではありません。・・・社会主義体制は完全に民主的で、従って中国は民主国家です」という答えになる。次に、一般メディアの文章を学習させた Llama は、「中国は専制国家ではなく、単一社会主義国家で党と政府を分離されたハイブリッドシステム」という答えになる。最後にCultraX を学習させると「中国は単一性政治システムで、政府が共産党に指導される専制国家」と言う答えが返って来る。

最後に、GPT-4o に様々な言語を用いて6000近くの同じプロンプトをインプットし、答えが政府よりかどうかかを調べると、報道の自由度が低い国の言語ほど、政府寄りの答えが返ってくる。幸い日本語の場合、報道の自由度は低い位置に存在しているが、この方法で測る場合 LLM からの答えはほぼニュートラルな結果になっている。

全て納得の結果で、このような科学により民主主義や自由が守られるのだと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月16日 ホモエレクトスがデニソーワ人と交雑していたかもしれない(5月13日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月16日
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ホモエレクトスはユーラシア全体に分布し、例えばジャワ原人とか北京原人とか土地の名前がついていた。エレクトスの登場は、その名前の由来の直立歩行だけでなく犬歯がなくなり男女の体格差がなくなるなど、本当の人間への進化が始まったことを意味する。。200万年から100万年前に棲息して、我々とはほとんど重なりがないと考えられていたが、アフリカやアジアでは他の人類と重なって生きていた可能性があり、当然交雑が起こったかどうかが問題になっていた。

今日紹介する中国アカデミー・人類起源と脊椎動物進化研究所からの論文は、中国各地から出土した40万年前後に棲息していたホモエレクトスの歯のエナメルタンパク質のペプチド解析から、ホモエレクトスを特定するアミノ酸多型を特定し、また、デニソーワ人とホモエレクトスの交雑の可能性を追跡できる新しいアミノ酸多型も開発した驚くべき研究で、5月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Enamel proteins from six Homo erectus specimens across China(中国の6体のホモエレクトス由来のエナメルタンパク質)」だ。

北京の中国科学アカデミーは、古代タンパク質の研究では世界トップの力量があるように思う。昨年も、ハルピンから出土した化石がデニソーワ人である事を証明した見事なタンパク質解析論文を発表している(https://aasj.jp/news/watch/26958)。

このテクノロジーを北京原人で有名な周口店、公王嶺、そして和県から出土した全6体の由来の歯の化石に適用して、11種類のエナメル分子の一部をカバーするアミノ酸の配列を決定している。全く知らなかったがY染色体にコードされたエナメル分子が存在し、その断片の有り無しによって、男の歯か女の歯かが決定できるらしい。この結果今回解析したうち5体が男性、1体が女性と判定された。

この研究のハイライトは、ホモエレクトスを特定するためのアミノ酸多型を特定したことで、アメノブラスチンタンパク質253番目が、人間、ネアンデルタール人、デニソーワ人ではアラニンであるのが、ホモエレクトスでは全てトリプトファンに変化していた。この結果は重要で、今回解析された和県由来のホモエレクトスは形態的にも他と大きく異なっているため、デニソーワ人の子孫でないかという極論まで存在していた。しかし今回の研究から、この多型はホモエレクトス型である事が明らかになった。

アメロブラスチンには他にも人類間で差があるアミノ酸多型が見つかった。それは273番目のアミノ酸で、ホモエレクトスはバリン、ホモサピエンスやネアンデルタール人ではメチオニンがくる。ところが、デニソーワ人を調べると、メチオニンとバリンの多型が両方存在することがわかった。もちろんこれだけでホモエレクトスとデニソーワ人の交雑があったとは結論できないが、デニソーワ人の祖先はまずネアンデルタール人と別れてネアンデルタール人に遺伝的に最も近いこと、さらに東アジアのエレクトスの形態がデニソーワ人に近いと言われていたこと、また時代的にも両方が同じ場所に存在していた可能性があることから、交雑によりこの多型がデニソーワ人に移行した可能性は十分ある。

さらに驚くのは、同じバリン型多型は、我々ホモサピエンス、特にフィリピンなど東アジアの人類で一定程度見られる点だ。東アジアのホモサピエンスが、5万年前後に出アフリカを果たしたホモサピエンスの子孫と考えると、この多型は後から突然変異で生じたか、デニソーワ人との交雑でホモサピエンスに移行した可能性も高い。

以上、古代タンパク質の解析から、デニソーワ人とホモエレクトス、またデニソーワ人とホモサピエンスの交雑を調べるためのマーカーが決定された。まさに大興奮の論文で、今後が楽しみだ。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月15日 肺線維症治療の新しい視点(5月13日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年5月15日
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肺で急速に線維芽細胞が増殖し、肺からの酸素取り込みを阻害する肺線維症は、ほとんど治療方法のない病気の一つだ。TGF-βによるコラーゲン合成誘導などを抑えて進行を抑える方法が唯一の治療として行われるが、根本的な治療にならない。これに対し、最近肺線維症を老化線維芽細胞の蓄積として捉え、老化細胞除去 (senolysis) で肺線維症を治療できる可能性が指摘されている。Senolysis誘導の方法として広領域チロシンキナーゼ阻害剤ダサニティブとケルセチンを投与する治験も行われている。

今日紹介するハイデルベルグ大学からの論文は、肺線維症で senolysis を誘導するという点ではこれまでの研究の延長だが、老化線維芽細胞除去機構でのNK細胞の役割に注目した点が新しい視点で、既に開発中の薬剤で肺線維症を治療できる可能性を示した重要な研究だと思う。タイトルは「Natural killer cell immunotherapy reverses lung fibrosis by eliminating senescent fibroblasts(NK細胞の免疫治療は老化線維芽細胞を除去して肺線維症を改善する)」だ。

損傷治癒過程の線維化の調節にNK細胞が関わることが指摘されてきた。逆に考えるとNK細胞機能不全が起こると線維化の調節異常が起こる可能性がある。そこで肺線維症を線維芽細胞の増殖調節以上という新しい視点から見直したのがこの研究だ。

研究では、肺線維症の患者さんの血液、肺洗浄液のNK細胞を single cell RNA sequencing により解析、NK受容体のうちNKG2Aを発現し、機能が低下した (exhausted) 集団が上昇していることを発見する。一方、線維芽細胞の方を調べると HLA-E を発現し、HAS1 を始め様々な老化マーカーを発現する繊維芽細胞が増えていること、そしてNKG2A受容体を発現するNK細胞のほとんどが HLA-E、HAS1 を発現している線維芽細胞の近くに集中していることを発見する。T細胞のPD-1と同じように、NKG2A はNK細胞のチェックポイント分子で HLA-E はこれに結合してNK細胞の機能を抑える。以上のことから、線維芽細胞の老化が始まり HLA-E が発現することで、NK細胞の機能を抑制、その結果老化線維芽細胞が除去されないというサイクルが起こっていることが想定される。

これを確かめるため、現在ガン治療目的で開発が進む NKG2A に対するモノクローナル抗体を老化線維芽細胞とNK細胞との共培養に加えると、期待通り強い細胞死の誘導がおこる。そこで、ブレオマイシン注射により誘導される肺線維症モデルで NKG2A に対する抗体の効果を調べると、老化線維芽細胞の数を半減させ、線維化を抑えることを示している。

ヒトでも同じ可能性があるかを調べる目的で、末梢血から調整したNK 細胞を放射線照射で老化させた線維芽細胞と共培養し細胞死の誘導を調べると、NKG2A に対する抗体を加えた培養だけで細胞死を誘導出来ている。

最後に、患者さんの肺組織を調べて、線維化が進むほど HLA-E を発現した線維芽細胞が増え、その周りに NKG2A陽性NK細胞が集まっていることを確認し、肺線維症のトランスレーションが可能である事を示している。また、線維芽細胞の老化マーカーHAS1 の血中濃度を調べると、肺線維症で有意に上昇が見られることを示して、肺線維症で見られる線維芽細胞老化の分子マーカーとして用いられることが示された。

以上が結果で、急速に進む肺線維症に対する治療法がない現状を考えると、まだ認可はされていないがアストラゼネカが開発した NKG2A に対するモノクローナル抗体を使う治験を始める価値は十分あると思う。安全性などは既に小細胞性未分化ガンなどで確認されているので、ハードルは低いと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月14日 RNAシャペロンによるALS治療の可能性(5月7日 Science 掲載論文)

2026年5月14日
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TDP-43 は ALS のみならずアルツハイマー病など様々な神経変性疾患に関わると考えられている。TDP-43 はRNAスプライシングや安定化に関わるタンパク質で、核内に存在している。このRNA結合部位がプリオン様の構造を持っており、RNAの少ない神経軸索などでは凝集し、神経変性を誘導する。この凝集を元に戻す一つの可能性が、プリオン様部位をRNAによって守る、即ちシャペロン機能を持つRNAに凝集を阻害させるアイデアだ。

今日紹介する論文は、TDP-43mRNA の 3‘ 側の非翻訳領域の短い RNA (Clip34) が凝集を防ぐことを発見していたペンシルバニア大学のグループによるRNAシャペロンの構造解析に基づくALS治療の可能性を示した研究で、5月7日号の Science に掲載された。タイトルは「Short RNA chaperones promote aggregation-resistant TDP-43 conformers to mitigate neurodegeneration(短いRNAシャペロンはTDP−43の凝集抵抗性を促進し、神経変性を抑える)」だ。

この研究では Clip34 と TDP-43 の相互作用ダイナミックスを、遺伝学的方法、HDX-MS と呼ばれる水素原子の交換速度測定、更にはNMRを用いた結合ダイナミックスの解析などを駆使して調べている。その結果、Clip34 は鍵と鍵穴に結合というより、RNAがRPM領域に結合するとPrLD領域のαヘリックス領域に変化を誘導し、分子自体が凝集しにくくなると言う複雑な相互作用ダイナミックスをまず明らかにしている。

その上で、Clip34 と凝集を促進する様々な変異TDP-34 との相互作用を調べ、ほとんどの変異分子の凝集は Clip34 で抑制可能だが、一部活性が低下する変異も存在することを確認し、Clip34 より強い活性を持ちながら、細胞の他の機能に影響がないRNAシャペロンの設計を行っている。その結果、配列は Clip34 とは全く異なる Malat1-start と名付けたほとんどの変異体の凝集を抑制できるRNAシャペロンを開発する。

後はこの活性を細胞やマウスモデルで調べる実験が続いている。このRNA細胞内届けるためリボースをメチル基に置換した修飾核酸を用いて安定化させた Malat-start を作成し、TDP-34変異により細胞質で凝集を起こす iPS由来運動神経培養に加え、核内局在を回復させ、スプライシング機能が正常化することを確認している。

最後に、正常マウス脊髄に核内移行が出来ない TDP-43 を導入して凝集させ神経変性を誘導したマウスの脊髄に Malat-start を注射する治療実験を行っている。この実験では神経機能については全く調べていないが、運動神経細胞質に形成された凝集体が、Malat-startを加えることで半分以下になり、神経細胞の形態が正常化することを示している。

今後は様々なALSモデルでRNAシャペロンの治療効果を調べていくと思うが、一度出来た凝集体にシャペロンが入り込んで、分子を可溶にするという力に驚く。RNAデリバリーの方法は発展が続いているので、かなり期待できるALSの治療法になるのではと期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月13日 経頭蓋磁気刺激によるうつ病治療のマウスモデル(5月7日 Cell オンライン掲載論文)

2026年5月13日
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経頭蓋磁気刺激 (TMS) によるうつ病治療についてはこのブログでも何度か紹介してきた (例: https://aasj.jp/news/watch/8393https://aasj.jp/news/watch/12934 )。ただ効果の神経学的、細胞学的メカニズムを探る目的で実験マウスを用いることは、マウスの頭蓋は薄く、また脳も小さいため、局所刺激を行うことが簡単ではなかった。

今日紹介するカリフォルニア大学ロサンゼルス校からの論文は、2mm以下の精度で局所刺激が可能なコイルを開発し、人間の標的である背外側前頭前野に対応する背内側前頭前野 (dmPFC) を刺激している。人間で行われているパルスを発生させるとコイルがオーバーヒートするので、これを冷やす水冷の冷却装置を加えたのが重要な点のようだ。こうしてマウスのうつ病モデルを TMS で治療するモデル実験系を作成したのがこの研究のハイライトになる。

この研究では副腎皮質ホルモン投与をストレスと組み合わせたうつ病モデルを用いており、TMS 照射はほぼ1時間ごとに10分づつの照射を10回繰り返すと言う方法を用いている。この方法ではうつと正常の差がはっきりし、TMS の効果も明確になる。

苦労してマウスモデルを作成するのは、神経学的な様々な解析が出来るからで、dmPFC 照射中に、

錐体路神経 (PN) と、うつに関わるとして知られている皮質間をつないでいるintertelencephalic神経 (IT) の活動をまず調べている。結果は期待通りで、うつ状態を誘導したマウスの dmPFC では TMS 照射中 IT のみ反応が上昇する。一方 PN では反応が低下気味になる。また、照射1日後にうつ病で低下する努力が必要な行動を調べると、IT の興奮が特異的に高まっていることがわかり、うつ状態の改善は IT の興奮性の回復が最も重要な要因である事を発見する。

次は、dmPFC 神経を連続的に観察し、スパインと呼ばれるシナプス結合を反映する細胞学的構造の変化を調べている。まさにモデル動物、特に自由に神経活動の記録や操作が可能なマウスでしか出来ない実験だ。結果は美しい。うつ状態を誘導すると IT だけでスパインの数が減るが、これに TMS を照射することでかなり元に戻すことができる。

次に TMS 照射を行うとき、光遺伝学的に IT の興奮を抑制すると、うつ状態の改善が見られなくなる。すなわち、IT の興奮性ががマウスのうつ状態を決めている。またこの IT の投射先の神経興奮を Fos 発現で調べることで、うつ状態改善時に最も変化が見られる投射先は、前障と呼ばれる意識に関わるとして注目を集めている領域である事も確認している。

最後にスパインの変化の持続性を調べ、症状だけでなくスパインの変化も照射後1週間は持続することを明らかにしている。

結果は以上で、ヒトとマウスのうつ状態に差があるのは認めた上で、しかし実験マウスで TMS の照射実験が可能になったことは重要だ。もちろん我が国の研究者を含め多くの研究室でマウスを用いた TMS モデルの確立が目指されてきた。しかし、行動から細胞レベルのスパインまで、現象を完全につなぐことが出来たのは大きいと思う。TMS に期待したい疾患はまだまだ多い。その意味で期待できる。

カテゴリ:論文ウォッチ

5月12日 少し風変わりな研究半年分紹介(3月21日 The Lancet 掲載論文他)

2026年5月12日
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気になる臨床論文はまとまるまで紹介せずにためているが、中にはかなり風変わりな論文で、テーマはおもしろいが紹介を躊躇する論文がある。今日は気分を変えて、普通なら紹介しない風変わりな論文を紹介することにする。

まず昨年の9月にハーバード大学から PlosOne に発表された論文から紹介する。タイトルは「Smartphone use on the toilet and the risk of hemorrhoids(スマフォをトイレで使うと痔のリスクが高まる)」だ。

私も新聞をトイレで読む悪習(臭)を持っているが、長くトイレに座ることは痔のリスクがあると言われれば納得する。この研究ではハーバード大学ベスイスラエル医療センターで大腸ファイバー検査を受ける患者さんに様々な項目について自己申告して貰う際、スマフォをトイレで見るかも調査している。大腸ファイバー検査で、痔の存在は正確に診断できるので、痔の発症とトイレでのスマフォ使用の関係をかなり正確に調べることができる。

この調査で、42人は全くトイレでスマフォは使わないが、83人は使うと答えている。そしてその半分はいつもスマフォをトイレで見ている。残りは、週に1-2度程度。多くが5分以上スマフォをトイレで見ており、ほとんどはニュースかSNSの閲覧時間になっている。男性の方がトイレでのスマフォ使用が多く長い。

結果だが、トイレでスマフォを使う人の50.6%は痔核を認める一方、全く使わない人では30%にとどまっている。イメージとして痔核の発見頻度が高すぎる気がするが、スマフォを持ってトイレに入って長く座っているのは、痔になるリスクが高いと結論している。

次は昨年1月 BMJ の Nutrition、Prevention and Health に、わが国の四條畷市の透析センターで働いておられる高橋医師からの一種コメント論文で、タイトルは「Can carbonated water support weight loss?(炭酸水は減量を助ける?)」だ。

に使われていると知って驚いたが、Web には様々な企業がウェッブサイトでこの可能性を情報提供している。読んでみると、お腹が膨れるので食べる量が減るというのが理由として挙げられている。ところが高橋医師は、透析患者さんの臨床経験から、他の理由も存在する可能性をこの論文で述べている。即ち、透析器を血液が通過するときに二酸化炭素が直接血液に溶け込むのと同じように、炭酸水も二酸化炭素を血液に供給、これが赤血球などの細胞の pH を上昇させ、これが糖分解を促進する可能性だ。4リットルの血液が透析器を通ると、このメカニズムで消費されるグルコースは9gと計算されるようなので、炭酸水による直接のグルコース消費の量はそれほど大きくないだろうが、透析と対応させて考えてみたのはおもしろい。満腹感誘導以外の炭酸水の効果を信じて、毎日飲んでみる気になった。

次の論文は昨年11月に Alzheimer’s Research & Therapy に掲載された英国 Exeter大学からの論文で、タイトルは「Drug repurposing for Alzheimer’s disease: a Delphi consensus and stakeholder consultation(薬剤のアルツハイマー病へのリパーパス:専門家パネルと利害関係者の協議による評価)」だ。

他の目的で使われている薬剤がアルツハイマー病 (AD) にも効果があるとする論文は多い。この研究では、研究者、医師、企業からなる専門家パネルを組織し、基本的にはウェッブ会議を通して、これらの薬剤について専門家にエビデンスを精査して貰い、最終的に8つに絞った後、全体の議論によって3つに絞り、最後に患者さんの家族やケアに当たる人に、この3つの薬剤を使う現実性について議論して貰い、論文としてまとめている。

こうして残った3種類の薬剤は以下になる。

  • 帯状疱疹ワクチン:これについてはまず予防効果については大規模な疫学調査もあり、今後この目的に絞った治験を行う必要があるが、専門家だけでなく治療に当たる関係者も使いやすいと高く評価している。ただ、メカニズム、特にウイルスが直接 AD に関わっているのか、炎症など間接効果なのかは明確ではない。
  • Riluzole:ALSに用いられる神経保護材で、ナトリウムチャンネル、カリウムチャンネル、そしてNMDA受容体に作用する、複雑な作用機序を示す薬剤だ。AD については動物実験で、GABA 受容体を高めて、認知機能を高めることが確認されている。臨床研究は ALS と比べるとまだ多くなく、第二相・三相の治験が必須。
  • Sildenafil: バイアグラのことで、生化学的作用機序は Phosphodiesterase 5 阻害剤として明確で、勃起不全の特効薬として広く使われてきた。最近では肺高血圧にも効果があるとして、2005年から臨床で使われている。AD に対するメカニズムは、Tau のリン酸化を抑えることが報告され、動物実験でも認知機能改善が示されている。現在第三相の治験が進んでおり、この結果待ち。

バイアグラが有効と証明されるとおもしろい話になる。

最後はワシントン大学を中心としたグループが The Lancet に今年の3月に発表した論文で、タイトルは「Prevention of urinary stones with hydration: a randomised clinical trial of an adherence intervention(水分摂取による尿道結石の予防:服薬遵守介入試験)」だ。

尿管結石を繰り返す人には、運動と水分摂取が進められる。わざわざビールを飲む人もいると思う。尿量を増やして結石の成分を薄め、出来た石も洗い流すという極めて素朴なアイデアだ。この研究では、尿管結石の既往があり再発が予想される1658人を無作為化し、片方に水分摂取を処方し、摂取できたかどうかも Bluetooth で確認する、服薬遵守崩壊入を行っている。

この介入により、治験中に3回行われた24時間尿量検査では、明確に尿量の増加が観察できている。しかし、810日まで追跡した尿路結石の再発は、両者で全く差がなかった。

もちろん水分を欠かすことは絶対に問題があると思うが、普通の量以上の水分摂取は必要無いのかもしれない。当たり前と思わず、治験で確認することの重要性がよくわかる。

以上、風変わりなおもしろい論文紹介も息抜きにいいと思う。

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