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5月21日 肺ガン免疫の鍵、3次免疫組織形成の神経支配(5月19日 Cell オンライン掲載論文)

2026年5月21日
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現役の頃、マウスの腸のリンパ組織パイエル版の発生を調べていたとき、発生中の腸管でパイエル版形成の場所決めをするシグナルは何だろうかとよく議論していた。今日紹介する論文にも出てくるように、リンパ組織 (LT) は、LT inducer (LTi) 名付けた血液系の細胞と、LT organizer (LTo) と名付けた間質系の細胞の相互作用により形成されるが、最初のスイッチが入る場所は結局わからなかったが、神経発生との相関を検討したらと議論した覚えがある。

今日紹介する英国フランシスクリック研究所からの論文は、肺ガンの免疫に強く関わると考えられている3次リンパ組織 (TLC) の形成を感覚神経が強く抑制していることを示す研究で、5月19日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Nociceptive innervation limits tertiary lymphoid structures to promote lung cancer(侵害受容神経は3次リンパ組織構造を制限し肺ガンを促進する)」だ。

自律神経がガンを助ける可能性については古くから研究されており、このブログでも取り上げてきた(https://aasj.jp/news/watch/2080)。実際、ガン治療目的の迷走神経切除まで検討されている。この研究は K-ras 変異と p53 変異を導入した肺ガン発生モデルでガンに対する神経支配を調べることから始めている。通常肺の感覚神経は気管周囲に投射しており、末梢の方は少ないが、ガンの周りには明確な神経支配の増強が見られる。この神経で発現が上昇している遺伝子を調べると、神経機能に関わるチャンネルのような分子にとどまらず、TLS 形成に関わることが知られている ケモカイン CSCL13 も強く発現している。

次に神経支配とガン増殖の関係を調べるため、肺を支配する感覚神経だけがジフテリアトキシンで除去できる実験系及び特異的に化学的に刺激する実験系を作成している。結果は明瞭で、感覚神経を除去するとガンの増殖は抑えられ、逆に刺激を強めるとガンの増殖が促進される。即ち、ガン増殖を肺の感覚神経が助けている。

神経から分泌されるカルシトニン関連ペプチド (CGRP) などの分子は試験管内でのガン自体の増殖にほとんど影響がない。特に免疫系への影響を調べたところ、神経除去で TLS の形成が増強されることを発見する。ここまで来ると、後は細胞レベルの解析を深めて、神経細胞、CGRP分泌からTLS形成までの役者を一つづつ追求することになる。詳細は省略して結果だけをまとめると次のようになる。

ガンにより感覚神経投射が誘導されるメカニズムは明確ではないが、ガン周辺に感覚神経が投射すると、様々な組織刺激を受けて CGRP を分泌する。CGPR 受容体機能に必須の補助タンパク質 Ramp1 は LTi の働きをする M1マクロファージ に強く発現しているので、神経支配によって LTi の機能が抑えられ、TLS を抑制していることになる。わざわざ神経を投射して免疫を抑えるというのは不思議に思うが、感染などで異常な免疫反応を抑制するために進化してきたシステムかもしれない。いずれにせよ、人間の肺ガンデータベースを調べると、カルシトニン遺伝子の発現とガン組織での T細胞 や B細胞 の浸潤は反比例しているので、間違いではなさそうだ。

最後に、タバコの影響についても調べており、神経に対しては CGRP 産生を促進することから、ガンの発生を助ける方向に働くこと、しかし神経支配を取り除いた後は、炎症刺激因子として TLS 形成にポジティブに働くことを示している。

以上が結果で、少なくとも肺ガンでガン局所で CGRP をブロックすることでガン免疫を高めることが出来るかもしれない。我々がリンパ組織の研究を始め、LTi や LTo を定義し始めた頃、研究していたのは我々も含めて4-5グループほどだったが、組織化された炎症と言う概念がここまで広がるとは予想できなかった。

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