パーキンソン病(PD)の治療はドーパミン神経の回復だが、特徴的な運動障害を改善するために、深部刺激や磁場による刺激などが利用されてきた。
今日紹介するトロント大学からの論文は、なんと超音波刺激でもPDの運動症状を改善できる可能性を示した研究で5月20日Science Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Transcranial ultrasound stimulation of motor networks in Parkinson’s disease informed by local field potential dynamics(パーキンソン病の運動回路の経頭蓋超音波刺激の影響を局所電場電位活動を指標に調べる)」だ。
PDの運動回路の特徴的変化は波長が14−30Hzという覚醒時に起こる脳波が高まることで、これをリラックスさせることが重要だと考えられている。このため、深部刺激でもβ波の上昇を感知して刺激により抑制することが行われる。
この研究では2カ所の音源から超音波を特定の領域に集中させる方法によち同じ効果が得られないかを、視床下核に設置した局所電場電位を記録できる深部刺激用の電極で記録して調べている。超音波はガンにも利用されるほど細胞障害性を持っており、まず安全性の徹底的解析から行っている。最終的に、自覚的にも、MRI等を用いた検査でも、温度上昇は安全範囲にとどまり、組織障害は見られず、自覚的にも問題がないことを確認している。
その上で、運動回路として淡蒼球内接、M1運動野、そして後部皮質を標的に、超音波照射を行い、深部電極で記録される視床下核の電場電位を記録している。結果は明確で、後部皮質、あるいは淡蒼球内接への照射は、逆にβ波を高めることがあっても抑えることはない。一方、M1運動野の照射は、視床下核のβ波を抑えることができている。この効果は指を動かす運動中では低下する。即ち、運動にはβ波の抑制が必要で、これによって照射の効果が打ち消されていると考えられる。
最後にPDの症状が照射により軽減されるかどうかについて、ビデオを見せて専門家に判断させる方法で調べている。結果はβ波の抑制効果と同じで、M1運動野を照射したときのみ、症状改善効果が得られている。
結果は以上で、実際には詳しい脳波成分を解析したりしているが、ほとんど割愛してエッセンスだけを紹介した。超音波はメカノセンサーを介して神経刺激をすると考えられているが、深部刺激のように急性効果というより、全体の回路の特性を変化させて効果が得られている可能性が高い。と言うのも、照射後50分効果が持続している。その意味で、急性の深部刺激を保管する目的にはおもしろい治療になる可能性がある。何よりも磁場を用いる方法と比べると、簡便で導入しやすい。しかし危険性も伴うので、今後超音波の脳への照射の安全性をさらに高める必要があると思う。その上で、β波上昇が見られるアルツハイマー病など他の病気の治療にも使えるかもしれない。
この論文を読んでいて気になったのが、M1領域のみ効果がある点だ。実際には3.5cmの深さに刺激標的が設定されている。最近紹介した北京大学からの論文でも、脳皮質の運動野の間にある皮質皮質下回路の脳幹との過剰結合を磁場照射で抑えると症状抑制が得られることを示していた(https://aasj.jp/news/watch/28297)。とすると、この超音波の標的になったのは皮質皮質下回路である可能性もある。この可能性も視野に研究を進めてほしい。
