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5月20日 妊娠期から授乳期の腸内変化(5月13日 Nature オンライン掲載論文)

2026年5月20日
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論文を読んだとき、今までどうしてこんなことがわかっていなかったのかと思うことがよくある。これは我々のAttentionにどうしてもバイアスがかかっており、見落としていたことに原因があると思う。

今日紹介するプリンストン大学からの論文もそんな例で、妊娠期から授乳期に小腸上部で好酸球の集積が起こり、これが腸管の粘液分泌を高めるリモデリングに関わり、感染から母親を守るという話で5月13日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Eosinophils drive intestinal remodelling and innate defence in reproduction(好酸球は腸管のリモデリングを誘導し生殖期間中の自然免疫に関わる)」だ。

この研究のハイライトは、妊娠後12日目、そして授乳開始後12日目の小腸を調べて、これまでに知られていた腸の長さや絨毛の拡大や、免疫サイトカインの減少などの変化に加えて、好酸球が他の白血球と比べても著明に増加しているという発見だ。これまで同じような研究は行われていたと思うが、好酸球はどうだろうというattentionがないと見落とす可能性はある。一方、single cell RNA sequencingもかなり行われているように思うが、このようなバイアスのない方法でも気づかれてこなかったこと自体に驚いている。

かなり特異的な集積で、小腸を上部、中部、下部に分けてしらべなおすと、上部に最も強く集積し、妊娠中より授乳中に最も高い集積が見られる。ただ、この原因については明確でない。妊娠中に腸管は大きな変化を示すので、腸管側の変化と相関させる実験を行っている。期待通り、特に授乳期に比率で見るとLGR5陽性の幹細胞の比率が低下し、粘液産生のゴブレット細胞の比率が上昇している。授乳期の腸間のオルガノイド培養で見ても、コントロールと比べてゴブレット細胞の数が増えている。

この変化が好酸球の集積によるのか、逆に好酸球の集積が腸内のゴブレット細胞上昇によるのかを調べる目的で、好酸球の移動を抑制するCCR3に対する抗体でマウスを処理すると、好酸球の集積がなくなるとともに、ゴブレット細胞の比率の上昇も止まる。この傾向をオルガノイド培養でも確認できる。従って、好酸球の集積がゴブレット細胞の分化を後押ししていると結論できるが、メカニズムについては示されていない。

ゴブレット細胞が増えることは、小腸での粘液産生が増えるということで、上皮をバクテリアから守っている可能性がある。そこで様々な細菌を経口摂取させ、腸内での細菌の増殖を調べると、増殖が半分ぐらいに抑えられている。さらにチフス菌のような治してきなさい菌を感染させる実験では、明らかにホストの生存を助けることが出来ることから、好酸球、ゴブレット細胞、粘液分泌というサイクルが確かに腸内での病原菌増殖を抑える働きがある。そして、好酸球集積をCCR3抗体でブロックすると、感染防御も消失する。

最後にこの防御効果がどの程度持続するかを調べ、授乳を終えた後12週目で検討すると、他の血球の状態はほぼ妊娠前に戻るが、好酸球集積とゴブレット細胞比率の上昇などは12週目でも持続し、この結果チフス菌の腸内での増殖を抑えることが出来ることを示している。ただ、獲得免疫については変化はない。

以上が結果で、ほとんどが現象論的な古典的な研究と言えるが、通常寄生虫感染でおこる好酸球集積が妊娠で起こり、母親を守るという面白さで採択されたと思う。今後、妊娠した人と妊娠していない人で、腸内感染の頻度を調べるとおもしろいかもしれない。

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