4月4日 安全で効果の高い合成麻薬を求めて(4月1日 Nature オンライン掲載論文)
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4月4日 安全で効果の高い合成麻薬を求めて(4月1日 Nature オンライン掲載論文)

2026年4月4日
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中国などの一部の国に対するトランプ関税は、合成麻薬フェンタニルを米国に違法に流入するのに手を貸していることを理由に合法性を得ようとしている。関税で解決しようとするのがトランプ流だが、確かにフェンタニル中毒は米国をむしばんでいることは間違いない。モルフィネ受容体を刺激して鎮痛作用を高めようとすると、中毒を含む様々な副作用に見舞われ、特に急性の呼吸抑制を誘導してしまって死に至らしめる。これは、オピオイド受容体がGタンパク質を刺激して鎮痛作用を誘導すると同時に、アレスチンをリクルートしてGタンパク質のシグナルを弱める2面性を持つためだ。以前はアレスチンシグナルが呼吸抑制に直接関わるとされていたが、アレスチンノックアウトマウスでも呼吸抑制が起こることからこの考えは否定されている。いずれにしても、両者のバランスをとりながら副作用のない合成麻薬を開発することは至難の業と言える。

これに対して今日紹介する米国NIHからの論文は、1950年代に開発されたスーパー麻薬 Nitazene を化学的に修飾することで、副作用の低い合成麻薬を開発できることを示した研究で、トランプから金一封が間違いなく授与されると思う。タイトルは「A µ-opioid receptor superagonist analgesic with minimal adverse effects(副作用を最低限に抑えたμオピオイド受容体に対するスーパー刺激剤)」で、4月1日 Nature にオンライン掲載された。

この研究ではまず Nitazene にアイソトープラベルも考えフッ素を添加した fluornitrazene (FNZ) を作成し、肝臓で分解された中に存在する N-desethyl-FNA を分離合成、DFNZ がμオピオイド受容体 (MOR) のスーパー刺激剤の活性を保持しているが、比較的アレスチンのリクルートが抑えられる化合物である事、そしてその分子構造的基盤を明らかにている。このMORの活性化は低いがアレスチンのリクルートはさらに低いという特徴が、副作用の低い麻薬として使えるのではと、薬剤動態から効果に至るまで徹底的にマウスで調べたのがこの研究だ。

まずラットに注射して調べると、鎮痛作用はFNZで0.03mg/kgで作用があるが、DFNZでは3mg/kg必要だ。ただ用量を上げれば鎮痛効果は十分得られる。一方で、脳内への貯留を調べると、DFNZは血清内濃度の半分以下でとどまる。これは、PGP/BCRP として知られる、脳から化合物をくみ出す仕組みにDFNZが強い結合性を持つ結果である事がわかる。

このようにアレスチンのリクルートが少ないこと、脳に蓄積しにくい性質の結果、モルフィネやFNZと比べても離脱しやすく、また呼吸抑制も低い。このあたりの実験は、神経行動薬理の粋とも言えるプロの仕事で、その結果FNZもDFNZも多くの項目でほぼ同じだが、DFNZはフェンタニルやモルフィネと比べると、習慣性や中毒性が低く、呼吸抑制が起こる閾値も高い。

副作用や習慣性の背景の一つが、モルフィン受容体がガラニン受容体と結合してドーパミン放出を介する報酬系を刺激するためだが、この刺激経路がDFNZでは低下しており、実際にMOR刺激によるドーパミンの脳内への分泌が抑えられていることを発見する。

以上の結果から、MORのスーパー刺激剤も、設計次第では副作用のない合成麻薬として生まれ変わらせることが出来ることを示している。DFNZがそのまま人間でも使えるかどうかはまだわからないし、麻薬効果が脳と末梢でどのようなバランスで発揮されているのかもわからないため、まだまだ研究は必要だと思うが、かなり期待できる話だと思う。こんな結果を見たら、内政に集中した方が良かったとトランプも大いに後悔しているのではないだろうか。

カテゴリ:論文ウォッチ

4月3日 シヌクレインの凝集と伝搬を阻害する化合物でパーキンソン病を治療する可能性(4月1日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2026年4月3日
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アルツハイマー病のAβやTauの凝集を抑えたり溶解したりする薬剤の開発は何回かこのブログで紹介しているが、これまでのブログを調べ直してみても、パーキンソン病 (PD) の原因になるαシヌクレインに直接結合してシヌクレイン症を抑えるといった研究論文は紹介していない。

ところが今日紹介するデンバー大学からの論文は、キノリンが数個結合したオリゴマーが、秩序だった状態で折りたたまれていることで、タンパク質のαフェリックスやβシート構造に結合できるフォルダマーと呼ばれる分子の一つSK-129がαシヌクレインの凝集、伝搬、そしてTauとの凝集を阻害する活性を持ち、動物モデルでPDを治療できることを示した研究で、4月1日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「Foldamers rescue synucleinopathy phenotypes in multiple in vitro and in vivo models(フォルダマーが様々な in vitro と in vivo のモデルでシヌクレイン症を正常化できる)」だ。

調べてみると、この研究で使われたSK-129と名付けられたフォルダマーは、2022年に開発論文が発表されている。最初の論文では、細胞レベルのPDモデルを用いて、αシヌクレインの細胞内での凝集を阻害できることを示している。それからほぼ4年が経過しているが、SK-129一筋に研究が続けられており、この研究ではタイトルにもあるように実に様々なモデルを用いて、その効果が調べらている。

前半は凝集が起こる変異を持つヒト シヌクレインを神経細胞で発現させた線虫で研究が行われている。このモデルの存在は知っていたが、紹介するのは初めてだ。シヌクレインを蛍光標識しておくと、透明な線虫ではシヌクレインの凝集から細胞死まで完全に追跡できる。すなわち、孵化後2日目にSK-129を投与すると、3日目から起こリ始める蛍光シヌクレインの凝集を強く抑制し、さらに3日目から15日までコンスタントに減り続ける神経細胞をほぼ完全に保持することができる。結果、線虫の運動低下を抑える。面白いのはPDモデルの線虫でもドーパミンが運動回復に効果がある。この系にSK-129を投与しておくと、正常線虫と同じでドーパミンは効果がなく、内在的なドーパミンが十分維持されている。

さらに、凝集が始まったあと、孵化後5日目にSK-129を投与しても効果があり、シヌクレイン凝集による活性酸素の生成を抑え、神経細胞死を抑えていると考えられる。従って、人間の様に診断がついた後でも治療に使える可能性がある。さらに、エクソゾームを介する異常シヌクレインの伝搬も、おそらく凝集シヌクレインはオリゴマーに結合することで、抑えることができる可能性が示唆された。

結局はマウスモデル、そしてヒトへと実験を進める必要があるので、わざわざ線虫でここまで丁寧に実験を行う必要はないのではと思ってしまうが、PDモデルとしてはそんなに悪くないというのも実感した。

後は、PD患者さんのiPS由来神経細胞を用いて神経細胞異常を誘導し、それを治療する実験を行い、ドーパミンSK-129で回復することを示している。他にも試験管内で実に様々な実験を行っているが割愛する。

最も重要なのはマウスPDモデルを用いた治療実験で、8週目にシードと呼ばれるヒトPDシヌクレインを脳内に注射、その後10週間目からSK-129を投与している。期待通りの結果で、SK129を投与しておくとPDガ発症しない。病理学的に調べると、シヌクレインの神経内凝集が見事に抑えられている。すなわち、SK-129は脳内に速やかに移行して、神経内でのシヌクレインの凝集、伝搬、そしてオリゴマーによる細胞死を抑える理想的な薬剤である事がわかる。

最後に、最近シヌクレイン症の病型を決めるのに重要とされているTau分子と共沈殿についても調べ、SK-129は相分離体の形成を変化させることで、共沈殿の形成を抑えることまで示している。

以上が結果で、明日からでも治験をしてほしいと思える大成果に見える。ただ、まだまだぬか喜びで終わる可能性もある。しかし、マウスの実験でここまでの結果が出るとすると、SK-129がダメでも他のフォルダマーを開発できる可能性はある。期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

4月2日 脳皮質内機能的結合性のトポロジー(3月25日 Nature オンライン掲載論文)

2026年4月2日
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機能的MRIや脳波などを用いて脳皮質の活動を調べ、各領域間の結合性を興奮の同調性として計算されるFunctional Connectivity (FC) は、脳の高次機能を調べるための重要な方法として定着している。このブログでも何度も紹介し、特に default mode network とうつ病の研究などは一般にも広く知られている (https://aasj.jp/news/watch/19488) 。 ただ、これらの研究のほとんどは脳全体の活動の中から特定のFCを抜き出してきて(例えば default mode network )定性的に調べる研究がほとんどで、脳皮質上に現れるFCの勾配全体、即ち脳機能全体を把握することは簡単ではなかった。

今日紹介する米国ノースカロライナ大学からの論文は、fMRIで記録された2万カ所もの領域同士の相関係数から、高次脳機能をこれまでのネットワークではなく、一種のFCの連続空間として表現することで、脳高次機能全体という極めて抽象的な活動を視覚化し、その発達をトポロジーの変化として解析する新しい方法を提案した研究で、3月25日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Functional hierarchy of the human neocortex across the lifespan(人間の新皮質の機能的階層性の生涯にわたる変化を明らかにする)」だ。

この研究ではfMRIで記録されたシグナルから得られ2万カ所に及ぶ皮質各部位間の相関性 (FC) をまずマトリックスに展開し、このマトリックスを diffusion map と呼ばれる方法で、1)一次感覚野と連合に関わる領域の間の結合性、2)視覚野と体性感覚野との結合性、そして3)注意や制御に関わる領域と表象に関わる領域との結合性を軸とする3つの次元に圧縮して表示することで、脳全体の機能を連続空間として表現出来ることを示している。

一時感覚野と連合野との結合性の次元 (SA) では一次感覚の抽象化能力、視覚野と体性感覚野の結合性の次元 (VS) では感覚の統合能力、そして注意・制御に関わる領域と表象に関わる領域の結合性(MR) では脳の統制能力と表象能力が数値化された3次元空間に展開することで、一人一人の高次脳機能の内容についても幾何学的に視覚化できるようにしている。

説明を聞いても何のことかわからないと思われたのではと心配するが、実際の図を見ないとどう視覚化されているのかを伝えることは難しい。論文はオープンアクセスなので、以下のURLをクリックして、diffusion map とはどんな感じか見てほしいと思う(https://www.nature.com/articles/s41586-026-10219-x/figures/1)これまでは機能的に相関している大きな領域としてと皮質上にマップすることしか出来なかったFCを、脳の構造とは独立した脳機能のトポロジーとして表現できる様になり、これを見ると抽象化能力、統合能力、統制能力と行った高次機能を一目瞭然で理解できるようになったことが重要だ。

研究では3000人にわたるfMRIデータを解析して、高次脳機能の成長や老化に伴う変化を、トポロジーの変化として理解できるか調べている。各年齢のデータの平均値を一つの diffusion map として表現すると、それぞれの次元での拡がりが成長とともに拡大するが、感覚の統合能力に関わるVSの拡がりは成長早期にピークに達し、後は低下する(拡がりが縮まっていく)ことがわかる。一方、感覚の統合能力を示すSA軸の発達は思春期でピークに達するが、統制能力を反映するMRは変化が緩やかで20歳ぐらいがピークというのがわかる。これも百聞は一見にしかずなので以下のURLをクリックして自分の目で見てほしい(https://www.nature.com/articles/s41586-026-10219-x/figures/2)。脳の図の上に活動の勾配として表現されただけではほとんどわからない変化が、diffusion map では成長や老化に伴う大きな変化として表現されている。悲しいことに老化により diffusion map の拡がりは縮小していくが、若い時代と異なりSAやVSの多様性が大きくなることから、老化は機能の低下だけでなく個人間の違いを生み出していることもわかる。一方MR軸の多様性は老化後も一定に保たれる。

こうして得られる diffusion map として表現されるトポロジーが、実際の認知機能やあるいは遺伝子発現とも相関させられることも示し、このトポロジーが機能を反映していることをさらに強調しているが、詳細は割愛する。

以上が結果で、仮想的脳構造の上にマップすることでしか把握できなかったFCを、独立した脳機能空間上の diffusion map として表現できるようにしたことがこの研究の全てだ。FCはAIのニューラルネットでも基盤になる概念なので、脳とAIの比較研究もさらに進む予感がする。

カテゴリ:論文ウォッチ

4月1日 寄生虫感染が食欲を低下させる理由(3月25日 Nature オンライン掲載論文)

2026年4月1日
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腸管上皮に存在するタフト細胞についてはこのブログでも何回も取り上げてきた。寄生虫感染により刺激され、type2免疫反応を誘導するだけでなく、この経路とは別にタフト細胞自体が腸上皮へと分化して完全なオルガノイドを形成する幹細胞機能を備えているという、Hans Cleaverの驚くべき研究も紹介した(https://aasj.jp/news/watch/25361)。ただ、寄生虫感染からtype 2免疫反応 (T2I) までの詳しい分子カスケードについては研究が進んでいなかった。と言うのも、そのためには神経生理学に近いレベルの細胞刺激実験が必要で、腸管免疫の研究者にはハードルが高い。

今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は、パッチクランプ法も含めて神経生理学の方法を駆使して、寄生虫感染、タフト細胞刺激、T2Iから迷走神経刺激による食欲減退まで、見事なシナリオを提示した研究で、」4月1日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Parasites trigger epithelial cell crosstalk to drive gut–brain signalling(寄生虫は腸上皮の相互作用を高めて腸脳シグナルを誘導する)」だ。

タフト細胞の不思議さは神経細胞でもないのにアセチルコリン合成能力を持っている点で、寄生虫などの刺激も全てアセチルコリン分泌を介して他の細胞に伝えていると考えられている。この研究ではまずタフト細胞のアセチルコリンによる腸上皮 (EC) の反応を、オルガノイド培養や、単一細胞レベルの生理学的解析を用いて調べ、タフト細胞が寄生虫の分泌するコハク酸などに反応してアセチルコリン分泌を高め、シナプスは形成していないがムスカリン受容体を介してECを刺激し、その結果ECの重要なメディエータであるセロトニン分泌が誘導されることを明らかにしている。腸を培養してECのセロトニン分泌を単一細胞レベルで観察すると、どのECでも反応するわけではなく、クリプトに存在するECだけがセロトニンを分泌できる。

次にタフト細胞のアセチルコリン分泌刺激過程を、単一タフト細胞をパッチクランプ法を用いて調べ、寄生虫が分泌するコハク酸で刺激されると、細胞内にCaが放出され、これによりTRPM5チャンネルが活性化されアセチルコリンの分泌が高まることを確認している。これは寄生虫に対する急性の反応だが、その後寄生虫感染が続くとT2Iが誘導される。この時分泌されるIL-4をオルガノイド培養に作用させると、タフト細胞の増殖とともに、急性刺激では得られない長期間だらだら続くアセチルコリン分泌が誘導されることを示している。その結果、一過性のアセチルコリン刺激では起こらない大量のEC細胞によるセロトニン分泌が起こることも、オルガノイド培養で明らかにされている。

最後に、何故寄生虫感染で食欲が落ちるのに、例えばタフト細胞を一過性に刺激するだけでは脳に影響が及ばないのかについて調べている。その結果、迷走神経の感覚端末はアセチルコリンやセロトニンで活性化されるが、実際の腸管で脳に影響を及ぼすほどの迷走神経刺激を誘導するためには、長い期間EC由来のセロトニンの刺激にさらされる必要があることを明らかにしている。すなわち、寄生虫感染初期におこる一過性のタフト細胞刺激では、迷走神経から脳孤立核の変化を誘導するには足りない。しかしT2Iが誘導され、IL-4の影響でタフト細胞の数が増え、しかも長期間アセチルコリンが分泌されるようになると、迷走神経が刺激され、この結果脳の孤立核の細胞が興奮して食欲減退や吐き気が起こることを示している。

以上が結果で、腸管を神経系を扱うのとおなじ方法で生理学的に調べる研究は新鮮な驚きがある。それぞれの経路は既に調べられていたことかも知らないが、単一細胞レベル、あるいは定量的実験でしっかり証明しているのがすばらしい。

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