コロナパンデミックでmRNAワクチンは一躍脚光を浴びるようになったが、ウイルスゲノムが発表されて、1週間もせずにワクチンが作られ、1ヶ月で動物実験を終え、なんと半年で第三相の治験まで終えるというスピードに驚いた。当時論文を紹介する中で見えてきていた免疫ルートは、筋肉注射によって一部はすぐに所属リンパ節に移行し、そこで抗体反応を誘導するというものだった実際、1回目と2回目を同じ腕に注射した方がいいとするオーストラリアからの研究は(https://aasj.jp/news/watch/26685)、このスキームを強く示唆していた。
しかし当時行われた研究のほとんどは感染を抑止する抗体誘導を指標に行われていた。一方、ウイルス感染に対する免疫としてはCD8T細胞も重要な役割を担っている。今日紹介するワシントン大学からの論文はコロナワクチンと同じ方法で投与されたmRNAワクチンのCD8Tキラー細胞誘導過程について調べ、抗体誘導とは全く異なるメカニズムが働いていることを明らかにした研究で4月15日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「mRNA vaccines engage unconventional pathways in CD8 + T cell priming(mRNAワクチンはCD8T細胞誘導に通常とは異なる経路を使う)」だ。
この論文は抗原を卵白アルブミン(OVA)に固定することで、反応側のCD8T細胞をOVA由来ペプチドに固定して研究できるモデル実験系を用い、筋肉に注射したときのマウスのCD8T細胞反応を全身で調べている。
全身がOVA反応性のT細胞で占められているという特殊な条件ではあるが、ワクチンを注射したときに増殖反応するCD8T細胞を調べると、注射局所や所属リンパ節に反応が限られることは全くなく、早い段階から体中のリンパ組織で増殖反応が認められる。即ち、抗体反応に関わるB細胞やCD4T細胞とは違う、局所に限定されない反応が体中で起こっていることになる。
抗原の産生は局所から所属リンパ節に限局されているはずなので、この結果は局所で抗原を受けた樹状細胞やマクロファージが体中に移動して免疫を誘導していることになる。そこで、注射部位、あるいは反対側のリンパ節から2種類の樹状細胞、cDC1、cDC2、そしてB細胞を取り出してCD8T細胞を試験管内で刺激すると、注射部位ではcDC1とcDC2のみ、反対側ではcDC2のみが反応を誘導している。これは驚きで、元々CD8T細胞はcDC1が誘導すると考えられているが、cDC2も関与が認められ、しかも注射部位以外ではかなり重要な免疫誘導細胞になっている。
そこで、cDC1,cDC2がそれぞれ欠損したマウスを用いて、様々なモダリティーの免疫を行うと、タンパク抗原やcDNAを導入した免疫ではcDC1のみが反応する。しかし、mRNAワクチンの場合、もちろんcDC1依存的な反応も誘導されるが、cDC1が欠損したマウスでも免疫を誘導することが可能である事が示された。CD8細胞から反応を見てみると、mRNAワクチンは、他のワクチンとは全く異なる免疫誘導経路を使っていることになる。以上の結果から、mRNAワクチンの場合は、抗原が合成される部位で抗原を取り込んだ樹状細胞が、注射した所属リンパ節だけでなく、身体全体に移動して免疫を誘導するという驚くべき結論になる。
次に問題になるのは、局所で抗原を取り込んでも、抗体反応に必要なClass II MHCには抗原ペプチドを載せて提示できるが、CD8T細胞誘導に必要なClass I抗原の場合、細胞内で分子が合成されるか、あるいは外界から取り込んだ抗原を細胞質へ移動させる仕組みが必要で、これをCross-presentationと呼んでいる。
そこで、Cross-presentationに必要な分子を樹状細胞で欠損させて調べると、CD8T細胞誘導に影響がない。従って、全く異なるメカニズムで樹状細胞は抗原とClassI MHCを細胞表面に提示していることになる。これを可能にするメカニズムとして、Cross-dressingと呼ばれる、抗原を合成している細胞(この場合筋肉細胞など)の細胞膜とMHC/ペプチドをそのまドレスを着るように膜に取り込む方法が存在する。そこお出、Cross-dressingが起こっているかどうかを、MHCの異なる動物とのキメラを用いて、異なるMHCごと抗原ペプチドが樹状細胞へ移行しているかを調べ、特にcDC2細胞でCross-dressingが起こっていること、またこれが起こるためには注射部位で誘導された自然免疫、特にインターフェロンが重要な働きをしていることを示している。
他にも様々な実験を行っているが割愛して結論を急ぐと、
- タンパク質抗原とmRNAワクチンのCD8T誘導メカニズムは大きく異なっている。
- mRNAワクチンは、局所で作られた抗原を取り込んだ樹状細胞が体中に移動して免疫を誘導する。
- そのときの抗原の取り込みは、Cross-dressingと呼ばれる、膜ごとMHC/ペプチドを取り込む方法が使われている。
本当に人間で、抗体反応も同時に起こる中で、同じことが言えるかどうか今後検討が必要だろう。しかし、ウイルスにかかってからのワクチン、あるいはガンワクチンを考えると、今回の研究は極めて重要でCross-dressingを効率化した免疫方法や樹状細胞治療が新しい視野に入ると思う。
