4月13日 Short Tandem Repeat 病リスクの大規模ゲノム解析(4月8日 Nature オンライン掲載論文)
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4月13日 Short Tandem Repeat 病リスクの大規模ゲノム解析(4月8日 Nature オンライン掲載論文)

2026年4月13日
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ハンチントン病をはじめとする70種類以上の変性疾患は、コーディング領域のCAG等の短い繰り返し配列 (Short tandem repeat: STR) の数が増大し、細胞内に繰り返し配列が翻訳された異常アミノ酸が蓄積して起こることが知られている。遺伝病だが発症は遅いことも多く、年齢を重ねるとさらにリピート数が増加することもあり、リピート数が病的と診断できても、病気が発症するかどうかの penetrance を正確に予測するのは難しい。以前にSTRのリピートが発生後拡大するメカニズムについてのおもしろい論文を紹介したが(https://aasj.jp/news/watch/9001)、このようなリピートが集団の中で維持されているのも興味深い。

今日紹介するリジェネロン遺伝センターからの論文は、エクソーム解析(WES)や全ゲノム配列解析(WGS)が行われたコホート調査から参加者を集め、100万以上のゲノムデータと臨床データを解析し、STRの拡大と病気の発生、及び無自覚の異常を調べた研究で、4月8日Natureにオンライン掲載された。タイトルは「Population-scale repeat expansions elucidate disease risk and brain atrophy(大規模なSTRについてのゲノム解析はSTRの病気のリスクと脳の萎縮について明らかにした)」だ。

親が発症した子供についてSTRと病気発症を追跡する研究は多く存在するが、病気とは無関係に、人間の集団内のSTRの数を調べた研究は珍しい。と言うのも、STRを調べるためにはコーディング領域の配列決定が必要だが、集団解析に用いられるのはほとんどshort readと呼ばれる短い配列を読む方法が使われており、CAG等の繰り返し配列が100続くような長いSTRを正確に判定するのは難しい。この研究では一部のサンプルをさらにPCRで解析する検証も加えて、完全ではないものの、37遺伝子について高い確度でSTRの数を特定できることをまず明らかにしている。また、リピートの長さの分布から、各遺伝子のSTRの長い集団0.1%をPremutation、0.01%をpathogenicと分類している。

こうして得られたハンチントン病やALSに関わる遺伝子など37遺伝子でSTRの長さがpathogenicであると診断された人は、例えばハンチントン病で見ると、病気の発症率として知られている頻度より5-10倍高い。即ちリスクを抱えたまま発症していない人が、他の遺伝子も含めて多く存在していることになる。調べた100万人の平均年齢が58歳なのでこれから発症するケースも十分存在するが、ハンチントン病など有名な病気はともかく、多くの遺伝子については遺伝性疾患として認識されていないことを考えると、ひょっとしたら原因不明の変性疾患の中にはSTR病も含まれていると考えられる。

こうして決定したSTRが各遺伝子の病気の遺伝性を決めていることは、100万人を人種別に解析することで確認でき、例えばハンチントン病HTT遺伝子やALSのC9orf72遺伝子のpathogenic STRの割合はヨーロッパ人で多い。一方、脊髄小脳失調症のCACNA1A遺伝子のpathogenic STRは日本人で多い。この人種ごとの違いは、STR病の進化を考える上で極めておもしろい。

この研究ではpathogenic STRの実際のリスクについても、コホートのヘルスレコードと照らし合わせて調べ、STRの長さがトップ0.01%の人では発症率が圧倒的に高まることを示している。おもしろいのは、それぞれの遺伝子で年齢による発症パターンが異なることで、例えばハンチントン症ではトップ0.01%の人でも45歳ぐらいから急速に発症率が上昇、最終的に30%の人が発症するケースや、筋強直性ジストロフィーでは早い時期から発症し、50歳では8割の人が発症するケース、そしてALSのC9orf72遺伝子では50題から急速に年齢と完全に比例して発症率が上昇し、トップ0.01%と0.1%では発症率にほとんど差がないケースなど、様々なパターンがある事を示している。この差も、STR病の発症をより詳しく理解するために重要だ。

最後に、pathogenicなSTRを持つが無症状の人で異常を県質出来るか、MRI検査が行われているUKバイオバンクなどのコホートを用いて調べると、ハンチントン病遺伝子で被蓋領域の20%の萎縮、筋強直性ジストロフィー遺伝子で小脳灰白質の24%の萎縮、そしてALS遺伝子で視床の9%の萎縮を観察している。また神経変性による末梢血に放出されるNflも無症状時期から上昇する事を認めている。

以上が結果で、STR病について知識がないと理解しづらい論文だと思うが、STRが何重もの遺伝子で、しかも集団単位で維持されており、細胞に応じて様々な発症様態を示すことがよくわかる。特に、無症状でも他覚的には病的なSTRを診断できることは臨床では重要だ。ただ、有名なSTR病以外のこれまで原因不明の変性疾患として片付けていた多くの病気の解析が進むのではと期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ
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