プラスチックなのに電気を通す電導プラスチックは、私の周りで見渡すと電動歯ブラシぐらいしか思い当たらないが、実際にはスマフォから自動車まで、様々な場所で利用されている。そしてこの電動プラスチックの開発者としてノーベル賞に輝いた一人が筑波大学のの白川先生だ。
今日紹介する米国 Prudue 大学からの論文は、電導ポリマーを生体内で合成させて、神経活動を変化させようという、とんでもないアイデアを実現した研究で、4月2日の Science に掲載された。タイトルは「Blood-catalyzed n-doped polymers for reversible optical neural control(血液により触媒される n-doped ポリマーを用いて可逆性の神経調節が可能になる)」だ。
全く素人なので調べてみると、本来絶縁性の高いプラスチックを電導に変えるためには、電気が動きやすいポリマー形成とそれにドーピングと言われる不純物を添加する技術で自由電子を生成すさせると電気が通るようになるらしい。タイトルにある n-doped というのはこの方法のことで、この分野の化学者にとっては当たり前の話になる。
しかしこれらの電導ポリマーは工場で作成しこれを成型して使うのが普通で、これを生体内の必要な場所だけで形成されるというのは、私のような素人から見ると画期的な話に思える。この研究は、最近開発された n-doped CP poly [3,7-dihydrobenzo(1,2-b: 4,5-b′)difuran-2,6-dione] (n-PBDF) が、生体内で安定で毒性がなく、さらに近赤外光を吸収するという性質を持っていることから、神経活動の調節に使えるのではと着想した。そして、n-PBDF のポリマー化を生体内で誘導するための条件を調べている。ほとんど化学の世界なので詳細は割愛するが、ヘモグロビンやミオグロビンに結合している鉄イオンが高い電荷を持つことで、n-PBDF のポリマー化を誘導することを発見している。
後は生体内でポリマーを安全に形成するかだが、ゼブラフィッシュの胎児に n-PBDF モノマーをビタミンE界面活性剤とともに注入してポリマー形成及び、毒性を調べている。近赤外の吸収を用いてポリマー形成を確認し、卵黄嚢の中でポリマーが形成されても正常に発生することを確認している。
マウス脳のスライス培養で、皮質第5層にポリマーを形成させると、細胞外のNa濃度の変化が起こり、Naの流入が上がり、Kの流出が低下し、イオン状態の回復が遅れる結果、興奮性が低下することを確認する。そして、ポリマーを生きたマウスの運動神経領域で形成させると、スパイク数が低下することが確認された。以上のことから、てんかんなどで過興奮が見られる場所にポリマーを形成させて治療を行う可能性が示唆された。
最後の極めつけ実験は、n-PBDFポリマーが遠赤外線に反応して温度が高まると同時に、伝導度が変化することを利用して、光で神経活動を可逆的に調節する可能性にチャレンジしている。錐体神経のデンドライトに接してポリマーを形成させると、それ自体では興奮性に大きな変化はないが、遠赤外線を照射すると、照射した間だけ樹状突起のスパイクが完全に消失する。ただ、光をオフにすると完全に正常に戻るので、神経自体の特性はほとんど変化していないことがわかる。
以上が結果で、n-PBDFのモノマーには毒性があるので、今後の応用に当たっては、まずポリマー化を試験管内で始めさせた後、組織内で馴染ませるといった工夫が必要になるが、ともかく電導プラスチックを組織内で形成させて、神経活動を変化させるという結果だけで、驚きだ。
