4月27日 膵臓ガンの上皮間質転換を抑える抗体治療の効果(4月22日 Nature オンライン掲載論文)
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4月27日 膵臓ガンの上皮間質転換を抑える抗体治療の効果(4月22日 Nature オンライン掲載論文)

2026年4月27日
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ネトリン1 は、様々な機能を持つ分子で、血管新生や神経再生などに重要な働きをしていることが知られている。同時に、ガンの進展の重要な段階である上皮間質転換にもネトリン1 が働き、これを抑制することで膵臓ガンの増殖を一定程度抑えることが示されてきた。

今日紹介するフランス グルノーブルにあるグルノーブルアルプ大学を中心にしたフランスの研究グループからの論文は、進行した膵臓ガンの標準治療としての化学療法(modified FOLFIEINOX:4種類の抗ガン剤を組み合わせる化学療法)に、ネトリン1 に対するモノクローナル抗体を組み合わせることで、治療効果をかなり高めることが出来ることを示した臨床観察研究で、4月22日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Netrin1 blockade alleviates resistance to chemotherapy in pancreatic cancer(ネトリン1 の阻害により膵臓ガンの化学療法抵抗性を改善できる)」だ。

ネトリン1 が膵臓ガンの上皮間質転換に必須の分子で、化学療法の抵抗性がこの上皮間質転換によるとする前臨床研究を根拠に、ネトリン1 阻害抗体をを膵臓ガンの化学療法と組み合わせた治療を実際の患者さんでテストしたというのがこの研究の全てだ。手術が不可能、あるいは手術はしたが腫瘍摘出は難しいと判断した進行膵臓ガンの患者さんを43人選び、全員にネトリン1 に対する阻害抗体とFOLFIENOX化学療法の併用療法を2週間に一回、トータルで12サイクル実施、その後は各医療機関で、化学療法、放射線治療、外科的摘出など自由な裁量に任せて経過を調べている。観察研究で、対照群などは全く置いていないが、元々進行膵臓ガンの予後については多くのデータが存在しているので、効果はある程度判定できると考えている。進行度については、大動脈、冗長感膜動脈、腹腔動脈の周りにガンが浸潤しており、ステージ4 といえる。

この研究の最初の目的は、ネトリン1 阻害抗体を加えることによる副作用と、効果を調べることだが、化学療法と組み合わせているので副作用の判定は簡単ではない。それでも、阻害抗体使用に特異的な副作用を調べると、下痢や吐き気をはじめとする様々な症状が見られるが、治療を中断することはなく、化学療法と比べ、全員が最後まで抗体の投与を受けることが出来た。

さて効果だが、42例中12例で腫瘍縮小が見られ、27症例でガンの進行を止めることが出来た。末期の膵臓ガンである事を考えると、10.5ヶ月も再発なしの生存が可能で、6ヶ月ガンの進行を抑制できたのが88%、1年間進行を抑えられたのが45%と、期待以上の成績が得られたと言える。その結果、10例の患者さんでは6−16ヶ月後に手術が可能になった。

この研究のハイライトは、治療期間中ニードルバイプシーで治療中のガン組織、あるいはその後の手術サンプルの組織から、膵臓ガン領域だけをレーザー法を用いて切り出し、遺伝子発現を調べることで、ネトリン阻害抗体により期待通り上皮間質転換が起こっているのか調べている。結果は上々で、ネトリン1 阻害抗体投与で上皮間質転換に関わる遺伝子の発現が強く抑制されるとともに、自然炎症に関わるサイトカインの発現も抑えられる事を確認している。即ちネトリン1 阻害抗体は期待通りのメカニズムでガンに効いた。

最後に、ネトリン1 に対応する受容体ネオゲニンのガン細胞での発現レベルで患者さんを分別すると、ネトリン1 シグナル依存性の指標となるネオゲニンの発現が高いほど、阻害抗体の効果が高いこと明らかにしている。

結果は以上で、コントロールがまったくおかれていない治療観察研究で、このまま結果を鵜呑みにするのは問題があるとわかった上で、それでも大きな期待を持たせる論文だと言える。

カテゴリ:論文ウォッチ
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