4月16日 デザイン創薬の基盤モデルは可能か(4月2日 Cell 掲載論文)
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4月16日 デザイン創薬の基盤モデルは可能か(4月2日 Cell 掲載論文)

2026年4月16日
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政府の成長戦略の一つ先端医療分野でのAI推進方針を見ると、「我が国の強みとしての質の高いデータ」の活用に道を求めているように読める。医療や医学で本当に質の高いデータが我が国の強みとしてあるのかは個人的には疑問に思うが、そうだとしてもデータの質に AI 競争に勝ち残る強みを求めるようでは医学分野での AI 競争には勝てないだろうと思う。例えば創薬を考えてみると、標的分子を見つける過程、標的に対する薬剤設計過程、薬効や動態についての研究過程、そして治験の計画から評価まで、あらゆる分野で AI の役割が期待される。しかもそれぞれの分野で急速に新しいモデルが発展していることを考えると、AI 人材、必要に応じて新しいモデルを開発できる人材を数多く輩出することが重要で、現状を考えるとすぐに出る結果は諦めても、長期の腰を据えた取り組みが必要に思える。その意味で強化学習を取り入れたLLM、DeepSeekを開発した中国は、生命科学分野でも高いレベルの研究を数多く発表している。

今日紹介する精華大学と北京大学のグループからの論文は、標的分子の活性に関わる分子ポケットにはまる様々な分子を設計できる生成AIモデル PocketXMol の開発についての論文で、様々な創薬目的に一つのモデルで対応できる基盤モデル開発を目指している。タイトルは「Unified modeling of 3D molecular generation via atomic interactions with PocketXMol(PocketXMolを用いた原子間相互作用を介した3次元分子を生成できる統一モデル)」で、4月2日号のCellに発表された。。

標的の分子ポケットを決めて様々な分子を設計する目的で使われるトランスフォーマーはでは、ペプチド設計と同じようなDiffusionに言語的指示が使われてきたが(DiffSBDDなど)、この研究では分子を原子、座標、結合タイプで表現して、原子間の相互作用のルールを学習させ、それをDiffusionの指示に使う方法を開発している。原子間相互作用というと、エネルギー法則を考えてしまうが、数式で表現できるエネルギー関数と行った法則ではなく、一個一個の原子の結合形式や、原子座標に分解して分子を表現し(これを原子プロンプトと呼んでいる)、これを学習させることで、物理的法則を自然に含むように設計している。

モデルは1千万の小分子化合物、4万近いタンパク質とペプチドの結合構造、8万5千のタンパク質と小分子の結合構造を、E(3)-equivariant geometric neural network と呼ばれる、物理法則と自然に整合するように設計されたネットワークに学習させている。基本的にこのモデルの構築が鍵で、こうしてできたモデルに、それぞれの原子、原子座標、結合タイプをプロンプトとしてインプットして、分子ポケットに結合する化合物を生成させる。

例えばポケットにフィットする分子を自由に生成させる場合、原子プロンプトは全ての原子を自由に生成するよう指示できる。これは従来のポケットにフィットする化合物を設計する多くのモデルとほぼ同じだ。新しい化合物を生成させて、既存の化合物や、他のモデルで設計される化合物と比べると、パーフォーマンスも上の部類といえる。

このモデルの重要な点は小分子生成にとどまらず様々な課題(実際には13の異なる種類の設計を一つのモデルで済ませる点だ。例えば、原子プロンプトで最初のいくつかの原子の種類や結合タイプを決めておくことで、例えばポケットにフィットする分子を起点に、新しい化合物へと発展させることができる。その結果、プロタックのように標的を分解する薬剤に必要な最適のリンカーの設計が可能になる。

他にもフィットする極めて小さな化合物をポケットに合わせて成長させることも可能で、この時の原子プロンプトは最初の原子、座標、結合タイプを小さな分子に合わせて指示し、残りを自由に生成させる。

このように決めておきたい原子構造とそれ以外を自由にプロンプトとして与えられるので、創薬化学で最も重要な至適化も同じモデルで可能になる。他にも、原子、座標、結合タイプから3D構造を決めるので、分子のタイプに限定されない。例えばペプチドの場合も原子と結合タイプを決めておいて座標を自由に設計させることで生成させることができる。

他にも、環状ペプチドや自然には存在しないアミノ酸を用いたペプチド薬など、現在創薬企業が競って行っている様々なモダリティーを全て同じモデルで設計できることを示している。

最後に、実際このモデルが役立つことを示すため、Caspase-9阻害剤を、まず自由な原子プロンプトでポケットにフィットする化合物を設計、その中から抑制活性の高い化合物を一つ選び、これをプロンプトに至適化を行い、既存の阻害剤とほぼ同じ活性を持つ化合物が設計できることを示している。

次にチェックポイント阻害の標的に使われるPD-L1のポケットに結合するペプチドを生成、この中からAlphaFold等による構造解析や、試験管内での結合アッセイを用いて高い活性を持つペプチドを選び、生体内のガン細胞表面のPD-L1に強く結合するペプチドを得ることに成功している。また、このペプチドがPD-1とPD-L1の結合を阻害することも示している。

以上が結果で、これまでのDiffusionに、直接原子プロンプトで指示を加える方法を組み合わせて、小分子化合物にとどまらずペプチド役に至るまで、13種類の創薬タスクに使える新しいモデルができることを示しているのはすごいと思う。我が国のAI研究にもこのぐらいの熱気が戻ってほしい。

カテゴリ:論文ウォッチ
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