機能的MRIや脳波などを用いて脳皮質の活動を調べ、各領域間の結合性を興奮の同調性として計算されるFunctional Connectivity (FC) は、脳の高次機能を調べるための重要な方法として定着している。このブログでも何度も紹介し、特に default mode network とうつ病の研究などは一般にも広く知られている (https://aasj.jp/news/watch/19488) 。 ただ、これらの研究のほとんどは脳全体の活動の中から特定のFCを抜き出してきて(例えば default mode network )定性的に調べる研究がほとんどで、脳皮質上に現れるFCの勾配全体、即ち脳機能全体を把握することは簡単ではなかった。
今日紹介する米国ノースカロライナ大学からの論文は、fMRIで記録された2万カ所もの領域同士の相関係数から、高次脳機能をこれまでのネットワークではなく、一種のFCの連続空間として表現することで、脳高次機能全体という極めて抽象的な活動を視覚化し、その発達をトポロジーの変化として解析する新しい方法を提案した研究で、3月25日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Functional hierarchy of the human neocortex across the lifespan(人間の新皮質の機能的階層性の生涯にわたる変化を明らかにする)」だ。
この研究ではfMRIで記録されたシグナルから得られ2万カ所に及ぶ皮質各部位間の相関性 (FC) をまずマトリックスに展開し、このマトリックスを diffusion map と呼ばれる方法で、1)一次感覚野と連合に関わる領域の間の結合性、2)視覚野と体性感覚野との結合性、そして3)注意や制御に関わる領域と表象に関わる領域との結合性を軸とする3つの次元に圧縮して表示することで、脳全体の機能を連続空間として表現出来ることを示している。
一時感覚野と連合野との結合性の次元 (SA) では一次感覚の抽象化能力、視覚野と体性感覚野の結合性の次元 (VS) では感覚の統合能力、そして注意・制御に関わる領域と表象に関わる領域の結合性(MR) では脳の統制能力と表象能力が数値化された3次元空間に展開することで、一人一人の高次脳機能の内容についても幾何学的に視覚化できるようにしている。
説明を聞いても何のことかわからないと思われたのではと心配するが、実際の図を見ないとどう視覚化されているのかを伝えることは難しい。論文はオープンアクセスなので、以下のURLをクリックして、diffusion map とはどんな感じか見てほしいと思う(https://www.nature.com/articles/s41586-026-10219-x/figures/1)これまでは機能的に相関している大きな領域としてと皮質上にマップすることしか出来なかったFCを、脳の構造とは独立した脳機能のトポロジーとして表現できる様になり、これを見ると抽象化能力、統合能力、統制能力と行った高次機能を一目瞭然で理解できるようになったことが重要だ。
研究では3000人にわたるfMRIデータを解析して、高次脳機能の成長や老化に伴う変化を、トポロジーの変化として理解できるか調べている。各年齢のデータの平均値を一つの diffusion map として表現すると、それぞれの次元での拡がりが成長とともに拡大するが、感覚の統合能力に関わるVSの拡がりは成長早期にピークに達し、後は低下する(拡がりが縮まっていく)ことがわかる。一方、感覚の統合能力を示すSA軸の発達は思春期でピークに達するが、統制能力を反映するMRは変化が緩やかで20歳ぐらいがピークというのがわかる。これも百聞は一見にしかずなので以下のURLをクリックして自分の目で見てほしい(https://www.nature.com/articles/s41586-026-10219-x/figures/2)。脳の図の上に活動の勾配として表現されただけではほとんどわからない変化が、diffusion map では成長や老化に伴う大きな変化として表現されている。悲しいことに老化により diffusion map の拡がりは縮小していくが、若い時代と異なりSAやVSの多様性が大きくなることから、老化は機能の低下だけでなく個人間の違いを生み出していることもわかる。一方MR軸の多様性は老化後も一定に保たれる。
こうして得られる diffusion map として表現されるトポロジーが、実際の認知機能やあるいは遺伝子発現とも相関させられることも示し、このトポロジーが機能を反映していることをさらに強調しているが、詳細は割愛する。
以上が結果で、仮想的脳構造の上にマップすることでしか把握できなかったFCを、独立した脳機能空間上の diffusion map として表現できるようにしたことがこの研究の全てだ。FCはAIのニューラルネットでも基盤になる概念なので、脳とAIの比較研究もさらに進む予感がする。
