アルツハイマー病(AD)でも、ガンと同じような遺伝子変異が見られることは何度か指摘されてきた。元々神経細胞の興奮はDNA損傷を伴うことも知られているので、変異は神経細胞で起こると思ってきた。しかし、今日紹介するハーバード大学とマウントサイナイ病院からの論文は、アルツハイマー病の脳で起こっている体細胞遺伝子変異の大半はミクログリアで起こっており、これが脳内の炎症を悪化させて病気を進行させているという研究で、4月21日Cellにオンライン掲載された。タイトルは「Somatic cancer variants enriched in Alzheimer’s disease microglia-like cells drive inflammatory and proliferative states(アルツハイマー病ミクログリア細胞で増加している体細胞ガン変異が炎症と増殖をドライブする)」だ。
ガンのように周りの組織から区別できる場合は変異の特定も簡単だが、普通の組織で体細胞変異を検出するのは簡単ではない。通常はシークエンスを繰り返すことで、変異を特定しているが、当然コストはかかる。この研究ではエクソームや全ゲノムシークエンスはやめて、これまでADでの変異が指摘されている149種類のガン体細胞変異に限定して、このパネルに対応するDNAを集めたあと、集めたDNAだけを1000回以上繰り返してシークエンスしている。この割り切りのおかげで高い精度で体細胞遺伝子変異を特定できるようになっている。
まず、変異はランダムに起こっているわけではなく、特定の変異が起こりやすい遺伝子が存在する。即ち、ADによる選択が起こっている。この起こりや錐体細胞変異をリストすると、ガン遺伝子の中でもガン抑制遺伝子に属する遺伝子が多く、これまで造血細胞のクローン性増殖を誘導する変異が多いことがわかる。
次にこれらの変異が見られる細胞をsingle cell RNA sequencingで調べると、驚くことに変異は全てミクログリアに集中しており、神経系ではほとんど見られない。もちろんこれは特定のガン変異に限って調べたからで、神経系で体細胞遺伝子変異が無いということではない。
脳内のミクログリアにも2種類存在し、一つは胎児期に卵黄嚢から脳に移行してそのまま一生そこで増殖するタイプと、造血システムからリクルートされるシステムに分かれるが、変異が認められるのは造血系からリクルートされるシステムということになる。
残念ながらAD患者さんの末梢血についての変異が示されていないので最終的にはわからないが、この結果はADで見られるガン体細胞変異は結局骨髄のクローン性増殖によって発生したクローンがAD脳内でミクログリアとして、さらに拡大して見えていることになる。
次にAD脳からミクログリアを精製して、単一核で遺伝子変異とともに、クロマチン構造から発現遺伝子を調べると、遺伝子変異が細胞の遺伝子発現全体に大きな栄養を及ぼしていること、特に自然炎症に関わる遺伝子発現が上昇していることを明らかにする。これをさらに確実にするため、iPSのゲノムに同じ変異を導入し、これをミクログリアへと分化させて遺伝子発現を調べて、AXL1, DNMT3A, TET2, それぞれの遺伝子変異が自然炎症に関わる遺伝子の発現に直接関わっていることを明らかにしている。
結果は以上で、読んでみると血液のクローン性増殖の問題性の新しい指摘ということになる。同じスキームは、動脈硬化や心臓病で示唆されてきた。即ち、クローン性増殖の結果炎症誘導性のマクロファージの割合が増え、これが動脈硬化を悪化させるというシナリオだ。もちろんADの直接原因というより、リスクファクターと言えるが、しかし加齢がADの最も大きなリスクファクターである一因を担っているのだろう。
