4月14日 βタラセミアを正確な塩基編集を用いて治療する(4月8日 Nature オンライン掲載論文)
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4月14日 βタラセミアを正確な塩基編集を用いて治療する(4月8日 Nature オンライン掲載論文)

2026年4月14日
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様々な遺伝子変異でβヘモグロビン (βHb) が出来ない病気がβタラセミアで、結果として赤血球ではαHbだけが作られることになる。βHbと結合できないとαHbは凝集しやすく、赤血球形成過程で細胞死が起こり、赤血球が形成できなくなる。現在のところ治療には赤血球輸血しかないが、大きな負担が起こるだけでなく、輸血による鉄オーバロードで肝硬変や心不全が起こる。タラセミアは様々な遺伝子変異に起因することから、根本的治療は遺伝子治療か、正常ドナーから骨髄移植を受けるしかない。

当然、変異を正常化する遺伝子編集はタラセミアにとって最も期待される治療だが、βタラセミアを誘導する変異は400以上存在し、個別に治療法を開発することは簡単ではない。そこで、βHb遺伝子を活性化する代わりに、通常なら生後スイッチオフされる胎児型ヘモグロビンを活性化し直して、αHbと結合させ、機能を回復させるとともに、αHbの細胞毒性を抑える方法が開発された。胎児型γHbを抑える機構はよく研究されており、2つのγHb遺伝子の両方に存在するTGACCA配列にBCL11Aレプレッサーが結合することで起こる。この配列を CRISPR で欠損させると、胎児型ヘモグロビンが大人でも合成されることになる。胎児型は酸素と結合しやすいので組織での遊離が低下するため機能的には問題があるが、日常生活にほとんど支障がないことが知られている。以上の結果を受けて、BCL11A結合部位を遺伝子編集する試みが行われ、CRISPR/Cas9でこの部位に変異を導入した自己血液幹細胞を移植する治験が52人のタラセミア患者さんで行われ、91%で輸血が必要でなくなる回復が見られたことが、ローマ・サクロ・クオーレ・カトリック大学を中心としたグループにより2024年 The New England Journal of Medicine に発表された(Vol390, 18, 1666, 2024)。

今日紹介する中国・広西医科大学からの論文は、単純にCRISPR/Cas9でBCL11A部位を変異させるイタリアの方法を上回る遺伝子編集法の開発治験研究で、4月8日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Clinical application of base editing for treating β-thalassaemia(βタラセミアに対する塩基編集法の臨床応用)」だ。

BCL11A結合部位に変異を入れるという目的はイタリアからの治験と全く同じだ。ただCRISPR/Cas9でBCL11A結合部位を切断し修復させる方法では、切断部位のストレスの結果、幹細胞が死ぬ確率が高い。また、使われているシグナル配列が、一部のアフリカ系の人には使えないこともわかっていた。これを改良するため、一つはデアミネーション酵素APOBEC3を用いて、DNAを切断しないでBCL11A配列中のCを他の塩基に変える、塩基編集を用いている。

この研究の徹底性は、APOBEC3にその阻害タンパク質を結合させ通常は活性がない分子をBCL11A結合部位にリクルートし、同時に他のシグナル配列を用いてAPOBEC3と阻害分子を切り離す酵素をリクルートする方法を開発した点だ。この結果、目的の部位だけが編集されるという特異性を2重に保証している。

このような「賢いアイデア」はともすると使いにくいのだが、この研究では人間の血液幹細胞のほぼ4割をBCL11A結合部位特異的に塩基編集でき、最終的に5人のタラセミア患者さんを、塩基編集した自己幹細胞移植で治療している。

結果は全員で輸血が必要でなくなり、移植後3ヶ月でヘモグロビン濃度が11mg/dlを超える回復を見せている。イタリアグループの方法では、2倍の数の幹細胞移植を行っても11mg/dlに達するのに半年近くかかっていることを見ると、Cas9によるDNA切断の影響は大きいと言え、今回の方法が複雑とはいえ、競争力があることを示している。

5例全て輸血から離脱し、移植に伴う様々な副作用を乗り越え2年以上経過していることから、次の治験段階へ進む価値は十分あると思う。しかし、おそらくこのグループの目的は、これにとどまらないと思う。と言うのも、幹細胞を取り出し、遺伝子編集し、元に戻すという方法では、人手とコストがかかることは間違いない。従って、直接編集ベクターを血液幹細胞に届けて編集する、生体内の塩基編集を視野に入れていると思う。そのとき、複雑な方法は効率低下につながるが、安全性が優先されるとすると、今回示された方法は十分な優位性があると思う。ここでも中国の躍進を感じる。

カテゴリ:論文ウォッチ
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