4月25日 何故心臓にガンは出来にくいのか?(4月23日 Science 掲載論文)
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4月25日 何故心臓にガンは出来にくいのか?(4月23日 Science 掲載論文)

2026年4月25日
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心臓にガンが出来たという話はほとんど聞くことはない。事実極めて悪性のガンが心臓転移することは知られているが、他の臓器と比べ心臓での転移巣の増殖は著しく低いらしい。

今日紹介するイタリア・トリエステにある遺伝子操作と生物工学研究所からの論文は、この極めてナイーブな問題にチャレンジしたおもしろい研究で、4月23日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Mechanical load inhibits cancer growth in mouse and human hearts(マウスやヒトの心臓では機械的付加がガンの増殖を阻害する)」だ。

発想は単純で、要するに心臓は動き続けてメカニカルなストレスが内在するためガンが増殖できないと仮説を立てて実験を行っている。これが正しいとすると、心臓の動きに伴う負荷を除去すればガン細胞も増殖できることになる。これを確かめるため、筋肉腫を誘導するガン遺伝子セットを心筋で発現させ、その心臓を取り出して、一つは循環による負荷が維持できるよう手術的に頸動脈と頸静脈に吻合させた心臓と片方は左心室への循環が起こらない心臓を作成し、心筋細胞の増殖を調べると、負荷がなくなると心筋細胞の増殖をガン遺伝子で誘導出来ることを発見する。さすがにガン発生まで待つのは実験的に難しいと思うが、一歩前進だ。

そこで、同じ実験的に負荷を調整した心臓に、直接肺ガンを注射する実験を行っている。すると負荷が続いている心臓でのガンの増殖はほぼ半減する。このように、負荷がともかくガンの増殖を抑えることがわかったので、試験管内で心筋を培養し、同じような負荷をかける実験システムを開発し、そこにガン細胞を注入すると、体内での実験と同じように負荷が存在するとガンの増殖が抑えられる。

ガンや筋肉の増殖を抑える仕組みと調べるため、まずどのような力が増殖を抑えるのか、ガンの分布やシミュレーションを通じて検討し、心筋の収縮に伴う機械的負荷と圧迫が最も重要な要因であろうと結論している。そして、負荷の有無で発現が大きく変化する遺伝子を探索、ほとんどの変化が負荷により複数のヒストン脱メチル化酵素の発現が高まり、結果抑制性のクロマチンを形成するH3K9me3が低下し、その結果様々な遺伝子の異常発現が誘導されるためである事を示している。最終的にヒストン脱メチル化酵素の上昇だけで話を収めているのは少し乱暴かとも思うが、この酵素の活性が低下したガン細胞は、負荷のかかった心臓でも増殖が阻害されないことから、このメカニズム一本で良いと結論している。

最後に、ではメカニカルストレスや圧迫を感知するメカニズムだが、核膜をまたいで細胞内の骨格と核内構造を連結している架橋分子、NestrinとSun分子に着目し、NestrinのRNAを阻害する実験を行っている。予想通り、Nestrinを抑えると、核へのストレスが伝わらず、心臓に負荷があってもガン細胞は負荷なしと同じように増殖できる。また、ヒストンの脱メチル化が低下することで、H3K9me3が上昇することも確認している。即ち、この核と細胞骨格を連結させている架橋複合体がメカニカルストレスや圧迫のセンサーとして働き、このストレスに反応してクロマチン構造を変化させるよう、ヒストン脱メチル化酵素の発現が上昇することが、動く心臓の中でガンが増殖しにくい原因だと結論している。

結論ありきで一直線に実験が進められている印象はあるが、何故心臓でガンが出来にくいか、おもしろい考えだと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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