死にかけの細胞を積極的に殺して新陳代謝を高めるセノリシスは抗老化治療研究の大きな柱になっているが、同じような問題は細胞内でも起こる。即ち、必要が無くなったタンパク質を速やかに処理しないと、新しいタンパク質が合成されパートナーと相互作用して機能するまでの過程で、古いタンパク質が邪魔をして細胞の様々な機能が低下する。
このタンパク質ゴミ処理を促進する化合物を、ミトコンドリアのタンパク質をモデルに開発したのが今日紹介するカリフォルニア大学バークレイ校からの論文で、10月29日号 Science に掲載された。タイトルは「Stimulated protein degradation to promote mitochondrial function and neuronal survival(刺激によるタンパク質分解はミトコンドリアの機能を高め神経細胞の生存に寄与する)」だ。
この研究は、ユビキチンリガーゼによるタンパク質分解研究で有名な Michael Rape のグループの研究で、モデルとして選んだのが彼らが2021年に Cell に発表したミトコンドリアの reductive stress response 調節機構だ。少しややこしい過程なので、この論文を参考にGPTが作成した図を以下に提示しておく。

この図からわかるように Cul2 とFEM1B が形成するユビキチンリガーゼはミトコンドリアの様々な分子を標的にして、ミトコンドリアへのタンパク質輸送や、呼吸チェーンに関わる分子の分解を誘導している。この活性ははミトコンドリアの酸化ストレスが高まったときには図にある BEX が Cul2/FEM1B に結合して抑えられるが、逆にミトコンドリアの活性が低下し、活性酸素が減ると BEX が離れて、ミトコンドリアタンパク質の新陳代謝を促すことが Rape らにより明らかにされた。
今日紹介する論文は、この BEX の結合を阻害する化合物を見つけて、Cul2/FEM1B活性を高めることで、ミトコンドリアタンパク質の新陳代謝を高めて、ミトコンドリア機能異常の治療法を開発することが目的だ。
詳細は省くが Cul2/FEM1B の基質結合と、BEX3結合をモニターする系で、BEX3 の結合を阻害するが、基質として用いた FNIP1 の結合には全く影響のない化合物を見つけ、この化合物をベースに細胞内で働く BD2 を作成し研究に用いている。
化合物スクリーニングや活性の確認にはミトコンドリア機能調節タンパク質 FNIP1 を用いていたが、当然様々な分子が標的になると考えられるので、BD2 を加えたときに細胞内で起こる変化を調べ、FNIP1と同じように分解される分子として、ヘキソキナーゼ、チトクローム酸化酵素、ミトコンドリア分子輸送分子など、新しい標的を特定している。
次にチトクロームc酸化酵素欠損症細胞をモデルに、ミトコンドリア異常症を治療する可能性を検討し、ミトコンドリアへのタンパク質輸送が促進し、タンパク質の新陳代謝が改善することで、BD2 はミトコンドリア機能異常を改善することが可能であることを示している。
最後に、CRISPR を用いて様々なミトコンドリア機能に関わる遺伝子を神経細胞でノックアウトしたミトコンドリア症モデルを作成し、これに対する BD2 の機能を調べている。もちろん遺伝子異常はそのまま残るが、全てのモデルでミトコンドリア機能を高め、神経細胞死を抑えることが出来ることを明らかにしている。
以上が結果で、ミトコンドリア全体で分子の新陳代謝を高めることが、遺伝子異常に起因するミトコンドリア病の治療を可能にすることを示した重要な研究だ。ユビキチンリガーゼを用いて特定のタンパク質を分解する方法は広く創薬に使われるようになっているが、全体のゴミ処理を高めるという発想も、今後重要な治療法として発展する予感がする。
