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12月17日:医学雑誌の息抜き:The BMJ クリスマス特集(The British Medical Journal; http://www.bmj.com/thebmj)

2016年12月17日
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   医学や生命科学の専門誌のエディターの関心事の一つは、多くの読者を得るために面白い論文を集めることだが、閲覧ヒット数だけが目的化しているキュレーションサイトと異なり、掲載された論文のデータの信頼性の確保にも努めなければならない。このため、各論文は厳しい審査過程を経て初めて掲載される。この過程で、一般の人から見ると「堅苦しい話」が中心の雑誌になる。
   しかし私が付き合ってきたエディターたちは決して「堅物」ではない。当然茶目っ気もある楽しい連中だ。堅苦しい話ばかりに満足せず、「まず世の中の役には立つようには思えない」面白い論文も掲載したいと思っている。そんな例を私のホームページでも紹介してきた。
   これまで紹介した例を挙げると、
電気ウナギの戦略(http://aasj.jp/news/watch/2539)、
相場と脳(http://aasj.jp/news/watch/1805)、
シマウマの縞(http://aasj.jp/news/watch/1345)、
グンカンドリは飛びながら寝る(http://aasj.jp/news/watch/5615
などだが、これらの論文は読んでいて思わず笑みがこぼれる。しかし、だからと言ってデータの信頼度をないがしろにしてはいない。
   信頼性の原則を守りつつ、ウケを狙った論文の特集号を毎年発行しているのが、英国の医学雑誌The British Medical Journalだ。
   反ワクチングループに買収されていたウェークフィールド論文や、タミフルの予防効果についての誇大宣伝に対して最も激しく戦った硬派の医学雑誌だが、クリスマスシーズンになると真面目と遊びの間のような論文を集めたクリスマス特集号を出している。アクセスに課金される通常の論文と異なり、この特集はすべての人に解放されており、英語だが読むことはできる(http://www.bmj.com/thebmj)。シャレと真面目の境にあるような論文ばかりだが、科学的信頼性を守るということが何かもわかるようになっている。
   掲載された論文だけでなく、あらゆる記事に細工がある面白い特集で、今年はBrexitについても言及があるかなと思っていたが、残念ながら当てが外れた。
   今回は論文だけに絞って、タイトルと内容を私なりに書いてみた。ただ、いつもの論文紹介と異なり、あくまでも斜め読み。
論文は5編だ。
1) セレブの言葉は影響力があるか?アンジェリーナ・ジョリーのNYタイムズの論説記事の後見られたBRCA遺伝子検査と乳腺切除数についての観察研究。(論文の著者は全員専門家だ。2013年5月、有名女優アンジェリーナ・ジョリーがNY Timesに書いたBRCA遺伝子検査の結果に基づいて、予防的に乳腺切除したことについての告白記事の前後でBRCA遺伝子検査数と乳腺切除数の推移を調べている。期待通り、発表直後からBRCA遺伝子検査数3割以上増加し、現在まで高止まりしている。ところが全乳腺切除数は変化なく、さらにBRCA遺伝子テストに基づいて予防的に行われる切除数は逆に低下している。このことから、セレブの宣伝に反応するのは健康な人で、乳がんの近縁者がいたりで心配している人には、世間が騒ぐことで検査を受けに行きにくいという逆効果になっている心配がある。)
2) 良い子のサンタさんの迷信を一掃する:サンタクロースについての後ろ向き観察研究。(著者は医学生と指導教官。医学生とはいえ科学的に研究を進める必要がある。2015年クリスマスに、サンタクロースがやってきた小児病棟を調べ、ロンドン東部を除いてはほとんどの小児科病棟にやってきていることを示している。そして分析の中で社会問題にも目を向けさせ、サンタが貧しい地域を訪れる頻度が少ないことを指摘、サンタがくる習慣が格差の維持に貢献しているのではという指摘をしているのは、教育的にも重要な議論が行われたことをうかがわせる。最後に、地域の若者の有罪率とサンタの現れる頻度に相関がないことを示した上で、「よい子のサンタ」という神話が否定された事実を子供に伝えるかどうか問うて終わっている。イギリス的ウィットに富んだ楽しい論文だ)
3) 高齢者になっても生活を享受することと死亡率:英国高齢者の縦断研究(これは専門家による論文:これは既に進んでいる英国高齢者の縦断研究の対象者について、生活を楽しんでいるかを2006年に指標化して、2013年までの死亡率を追跡している。ただ観察研究であるため、信頼性にはかけることを断った上で、高齢者が毎日の生活に満足することが死亡率低下につながることを示している)
4) ポケモンGoを攻略したぜ!ポケモンGoと若年成人の身体的活動:差分の差分法研究 (ポスドクと教授が著者:ウェッブで参加者を募集し、スマホの歩数計のデータを記録、ポケモンGoをダウンロードしてからの歩数を調べている。結果は、参加者平均の歩数は普通1日4000歩程度だが、ポケモンを始めると平均で900歩程度上昇する。ただこれは一過性で、6週間目にはほとんど差がなくなるという結果だ。)
5) おしっこの価値(P-value)を嗅ぎ出す:アスパラガスに対する嗅覚障害のゲノムワイド関連解析。
(会議に集まった専門家が話しているうちに思いつき、論文にした:アスパラガスを食べた後はオシッコが不快な臭いを放つという観察をベンジャミン・フランクリンが書き残しているようだが、医療関係者のコホート調査を対象に(インフォームドコンセントが取りやすい)、臭いを感じる人と感じない人を分け、ゲノムワイド関連解析をしたところ、1番染色体の嗅覚受容体クラスターに多型が特定された。)
と、盛りだくさんだ。対象は子供から高齢者まで、著者も学生から専門家まで。そして、しっかり科学的手法とは何かを示すとともに、格差などの社会問題を考えさせる素晴らしい特集だ。ぜひ医学部の教育に取り入れればいいと思う。
私たち夫婦にとっても、世の中のしがらみを捨て、今まで通り楽しく生きようと思いを新たにした。

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