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8月23日:胃の幹細胞システム(Natureオンライン版掲載論文)

2017年8月23日
腸の幹細胞に、R-spondinと呼ばれるWntシグナル促進因子の受容体Lgr5が発現しているという発見と、Lgr5遺伝子を利用した幹細胞特異的遺伝子操作法の完成、そして現在慶応大学内科に在籍している佐藤さんが開発した単一幹細胞から腸上皮オルガノイドを形成する培養法の開発で、腸の幹細胞システムの理解はずいぶん進み、また臨床医学研究にも大きく貢献している。

佐藤さんの方法の素晴らしさは、単一の幹細胞がほぼ完全な腸組織を作るところだが、もちろん培養には細胞の増殖に必要な因子は供給されている。おそらく発生学的に言えばこの方法の最も面白い点は、増殖因子が構造的にアレンジされなくても、上皮独自で構造を自己組織化できることで、この秘密に迫る研究が今後も進むと期待している。

今日紹介するドイツベルリンのマックスプランク感染生物学研究所からの論文は胃の幹細胞システムの構築を、増殖因子を産生している周りの間質細胞も含めて明らかにした研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Stromal R-spondin orchestrates gastric epithelial stem cells and gland homeostasis(ストロマ細胞が分泌するR-spondinは胃の幹細胞と臓器の恒常性をコントロールする)」だ。

この研究ではまずWntシグナルに反応している上皮細胞をAxin2をマーカーとして標識する実験から、Lgr5の発現にかかわらずAxin2陽性細胞が胃の幹細胞として機能し、Lgr5陽性細胞は完全に除去しても、幹細胞システムの維持やオルガノイドの形成に影響がないことを示している。これらの結果に基づき、胃の幹細胞システムは活発に増殖するAxin2陽性幹細胞が上部に移動して分化細胞を供給、また基底部に移動して増殖の遅いAuxin2陽性Lgr5陽性の幹細胞を形成するようにできていることを示している。

Lgr5が幹細胞システム維持に必要でないことがわかったので、次にそのリガンドのR-spondinの胃幹細胞システム維持に対する役割を検討すると、R-spondinが欠損すると幹細胞の増殖が維持できないことを明らかにする。面白いのは、Wntの発現は局在性はあまりないが、R-spondinは幹細胞の多い基底部の間質で発現している。そして、胃の上皮細胞はLgr5ではなく、Lgr4を受容体として使って、R-spondinの作用を受けていることが示唆された(照明はされていないと思う)。

すなわち、Wnt自体は全体で発現しているがR-spondinが基底部でだけ発現して勾配を形成することで、幹細胞の位置と活性を調節していることになる。最後に、胃上皮の増殖を誘導し胃がん発生を促進することが知られているヘリコバクターピロリを感染させる実験を行い、感染によりR-spondinの産生が強く亢進することを示している。

胃の幹細胞システムについてはっきりとしたイメージを持つことができるようになったが、もしR-spondinの局在が構造を決めているとすると、R-spondinが十分供給されたオルガノイド培養では、構造がうまくできないのではと思う。いずれにせよ、ストロマとの共培養系も可能なようで、ぜひヒトの構造化された胃幹細胞システムを作って、感染やガン化の研究に役立ててほしいと思う。例えば、スキルス胃がんの特徴を再現できたら、画期的治療が開発できるような気がする。
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