平成26年1月7日付日本経済新聞夕刊の9面「フォーカス」欄で、昨年暮れに来られた同社編集委員 安藤淳氏のインタビューを受け、西川伸一代表がAASJの現状などをお話したものです。
AASJに関する西川代表のインタビューが日本経済新聞に掲載されました
1月8日:進むガンの突然変異カタログ作り(Natureオンライン版掲載論文)
これまで何回か、がん細胞の突然変異を網羅的に調べている論文を紹介して来た。ただ、乳がんや白血病のように、多くのがんで共通に見られる突然変異もあるが、がん関連遺伝子の多くは高々20%以下の頻度でしか見つからない。本当にがんに関わっているのか、がん治療に役に立つのかなどまだまだ調べる事は多い。このため世界中で発がんに関わると考えられる遺伝子変異のカタログ作りが進んでいる。今日紹介するのはそれを代表する研究でハーバード大とマサチューセッツ工科大からの論文だ。タイトルは、『Discovery and saturation analysis of cancer genes across 21 tumor types (がん遺伝子を全て見つけて記載する目的で行った21種類の腫瘍についての解析)』。この研究では得られる4742にも上るがんのエクソーム解析データを調べ、いつになれば完全な突然変異のカタログが出来るのかを調べている。5000近いエクソームを調べるともう十分な気もするが、まだまだ完全なカタログには数が足りないと言うのが結論だ。それでもこれだけの数調べると、乳がんや子宮内膜がんなどでは多くの遺伝子が突然変異を起こしてくる事がわかる。また神経芽腫や横紋筋種などの小児がんでは突然変異の見つかる遺伝子が極端に少ない事がわかる。(突然変異より遺伝以外の要因が考えられる)。当然これまで重要だとされて来た遺伝子は今回のカタログに全て含まれている。加えて33の新しい遺伝子の突然変異も発見された。ただ、理論的に計算すると一つのがんで1000から2000の異なる腫瘍を調べないと完全なカタログは完成しないようだ。世界中が協力すれば可能なはずで、是非進めて欲しいと思う。
ただ、論文自体は調べましたと言う報告でストーリーはなく、一般の方にはあまり面白くない論文だ。ただ敢えて取り上げたのは、エクソーム検査が今日では当たり前の臨床検査になりつつある事が感じられるからだ。これまではがんの候補遺伝子を決めてPCRを使って診断しており、検査法の開発もそのコストをさげ速度を上げることが主眼だった。しかしエクソーム解析は発現している遺伝子全てを調べる点で、これまでの検査とは全く違う。これまではその遺伝子配列決定にかかるコストの高さから候補遺伝子を決めて行う方法にはかなわなかったが、コストは低下しており、普及すれば候補遺伝子に絞った検査を逆転し、がんの発生や経過を考える点では2−3年のうちに間違いなくコストパーフォーマンスの高いはるかに有用な検査になると思う。日本の大きな一般病院でいつからこのような検査が利用できるようになるのか心配する?折しも今日の読売新聞の記事で、経産省が個人ゲノム研究の規制問題を話し合う委員会を立ち上げた事が出ていた。これも重要だが、先ず医療現場にどれだけ最新の遺伝子検査を利用できるようにするかが先決だと思う。アメリカは2004年1000ドルゲノム計画をスタートさせ、ゲノム検査は決して研究所で行う事ではなく、一般病院や個人が気軽に調べられるようにすべきだと言うメッセージを発した。そして10年、予言通りこの方向に時代が進んでいる。日本がこの点で空白地帯になろうとしているなら、逆に民間にとっては大きなチャンスが来たのかもしれない。