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1月24日雄にしかない攻撃性に関わる神経細胞(1月16日号Cell 誌掲載論文)

2014年1月23日
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私たちの脳は単純な動物の神経システムから進化して来た。言い換えると最初に出来てしまった神経システムから完全に開放される事はなく、それを少しずつ変化させる事でしか今の形にたどり着けなかった。この事から、人間の行動の様な複雑な高次機能の基本形を下等な動物に求める事が出来るはずだと予想できる。この信念でショウジョウバエを用いた行動研究を始めたのが、セイモアベンツァーと堀田凱樹だが、若い研究者になると名前も聞いた事がないかもしれない。ただ、今日紹介する論文を読んで、この伝統がまだまだ健在である事を知った。研究はBenzer博士が行動研究を始めたカリフォルニア工大からで、西海岸の神経研究の大御所David Andersonの研究室に在籍する朝比奈さんが筆頭著者だ。何か堀田・Benzer時代を彷彿とさせる。論文は先週号のCellに掲載され、「Tachykinin-expressing neurons control male-specific aggressibe arousal in Drosophila (ショウジョウバエの雄だけに見られる攻撃性の活性化を制御するタキキニン発現神経細胞)」がタイトルだ。    雄特異的な攻撃性に関わる神経細胞を同定するために、このグループは行動に関わる神経伝達物質はペプチド性のホルモンだろうと狙いを付けた。そして、もしペプチドを作っている神経が興奮すると、ショウジョウバエの攻撃性が増すだろうと仮説を立て、ショウジョウバエに存在する20種類、それぞれのペプチドを作っている細胞に、遺伝子改変手法を用いて温度が上がると興奮する受容体を導入した。この実験からタキキニンを作っている神経を興奮させたときだけ攻撃性が上がることを発見した。タキキニンの一種であるP物質はヒトの攻撃性と関わっている事がこれまでの研究で知られている。まさにヒトとショウジョウバエがつながる予想通りの結果だ。さらにこのタキキニンを造っている細胞を調べてみると、雄だけで存在し、雌には存在しない。これまでもホルモンなどで雄化したり雌化したりして新しい神経が現れ行動に関わることが知られていたが、ここで発見されたのは発生過程で雄だけに出来てくる神経だ。更に多くの実験を加えて、この細胞がタキキニンを分泌して、行動につながる神経回路を全体的に活性化させていること、求愛行動などには全く関わらず雄同士の攻撃性にだけ関わることを示している。攻撃性だけを担う細胞、面白い発見だ。同じような雄にしかない神経細胞が人間にも存在するのかは勿論不明だ。しかし雄雌を問わず攻撃性にだけ関わる細胞があるなら、それから解放されて、世界が平和になる薬剤の開発に是非つながってほしい。
カテゴリ:論文ウォッチ

神経性食思不振症治療法の治験(1月11日the Lancet掲載論文)

2014年1月23日
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私事になるが、熊本大学から京大に移った時最初に秘書として雇ったMさんは、面接のときから重症の神経性食思不振症である事がわかる女性だった。普通は採用を敬遠するのだろうが、他の候補と比べて英語がはるかに堪能であり、私自身も医師の経験があるので何とかなるだろうと雇う事にした。実際期待通り、仕事については申し分なく、持てる能力を発揮してよく補佐をしていただいた。しかし、病気の方は一向に良くならず、結局体力が持たず退職された。その後入退院を繰り返されたあと、亡くなられた事を聞き、私の生半可の医学経験がこの病気には全く役に立たない事を思い知らされた。今日紹介する論文はドイツの研究で、この病気に対して3種類の治療方法を選び、それぞれの効果をBMI(体格指数)の増加を指標として1年間追跡した医療統計学に乗っ取った治験研究で、1月11日付けのThe Lancet紙に掲載された。「Focal psychodynamic therapy, cognitive behaviour therapy, and optimized treatment as usual in outpatients with anorexia nervosa (ANTOP study):randomized controlled trial (神経性食思不振症外来患者に対する3種類の治療法:局所精神分析治療、認知的行動治療、通常の至適治療の比較(ANTOP研究):無作為化比較研究)」がタイトルだ。専門的だがそれぞれの治療法を簡単に紹介しよう。まず全ての患者さんはかかりつけ医に月一回診てもらうようにしてある。また、かかりつけ医はこの治験に参加する際の決まり事についてマニュアルを貰いしっかり習得する。その上で、1)一定の方向性で行われる専門医による精神分析により患者さんの精神状態を改善させようとする治療、2)Fairburnさんの考えに基づくマニュアルを使った認知行動療法。この治療のために、セラピストはこのマニュアルに習熟した上で、低体重の問題や規則正しい食事の重要性を指導する、そして3)患者さんに心理療法士を紹介し、普通の治療を受けてもらうが、状態はかかりつけ医がきちっと追跡する、の3グループに分け追跡が行われている。さて結果だが、グラフの平均値は精神分析療法を受けた方が回復が進んでいるように見えるが、統計的には3グループで大きな差はないと言うのが結論だ。実際、最初16.5ぐらいしかなかったBMIが18近くにまで回復しており、素人から見ると今回選ばれた患者さん達についてみれば治療はうまく行っているようだ。    論文を読むとこの病気についてこれだけの規模の治験が行われた事は初めてらしいが、どの治療法が優れているかが決まらなかった事は残念だ。しかし論文からドイツではこの病気に対して心理療法士まで全てカバーする医療保険体制が整っていることがわかる。また、マニュアルに従ってこの患者さんをしっかり管理してくれるかかりつけ医が見つかるのも素晴らしい。今回治療法の間で差がなかったと言う結果は、ひょっとしたらこの様な心の病気に対するドイツの医療システムの水準の高さを示しているのかもしれない。事実、かかりつけ医さんが治験の重要な一端を担えるというのも優れた医療システムを反映している。いずれにせよ、マニュアル通り患者さんを診てくれるいいかかりつけ医がいる事がこの病気にとって最も重要な事だと実感した。
カテゴリ:論文ウォッチ
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