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3月1日:がん治療としてのオートファジー抑制(2月25日発行Journal of Clinical Investigation掲載論文)。

2014年3月1日
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私たちのNPO、AASJの運営資金のほとんどは、活動を理解していただいている製薬メーカーのコンサルテーションを行う事で得ている。と言うと私の方から一方的に様々なアドバイスをしているように聞こえるが、実際には私自身がこの活動を通して学ぶ事も多い。仕事の一環として企業の研究員の人達と論文を読みながら創薬可能性について議論する会はいつも楽しみにしている。というのも、現役を辞めた後も新しい情報を仕入れる事が出来るので本当にありがたい。先週この抄読会でSさんから、オートファジーと抗がん剤抵抗性の論文を紹介され、不勉強を思い知ると同時に大変興味を持った。このコーナーでも一度解説したと思うが、オートファジーと呼ばれる現象は現東京工大の大隅先生のグループが世界にさきがけて見つけた現象だ。今や医学生物学の分野で最も大きな注目を集めている現象で、なんと今年の2月だけでも200を超える論文が発表されている。がん治療の抵抗性の一つのメカニズムとしてオートファジーが注目されている事を知ると、このフィーバーも当然の事だと納得する。新しい知識を念頭に論文を読んでいると、確かにこの問題を扱った論文は多そうだ。今日紹介するのは、悪性黒色腫のBRAF標的治療とオートファジーの関係を調べたペンシルバニア大学の研究で、2月25日発行のJournal of Clinical Investigationに掲載された。タイトルは “Targeting ER stress-induced autophagy overcomes BRAF inhibitor resistance in melanoma” (ERストレスによって誘導されるオートファジーを標的にする事で悪性黒色腫のBRAF阻害剤の抵抗性を克服できる)だ。悪性黒色腫の半分弱はBRAFと呼ばれる遺伝子の突然変異によって起こる事が知られている。この分子の活性を押さえるBRAF阻害剤、あるいはその下流のシグナル伝達経路の阻害剤が、がんに対する分子標的薬剤として用いられており、高い効果を上げている。しかし標的薬剤と言っても、薬剤抵抗性のがん細胞が残ってしまって根治を妨げる。なぜ抵抗性が獲得されるのかを調べる事で、薬剤抵抗性細胞の出現を克服できないかと言うのが今回の研究だ。研究では、最初悪性黒色腫の細胞を阻害剤で処理するとオートファジーが著明に上昇すると言う現象からスタートしている。次にBRAF阻害によりオートファジーが誘導される経路を調べ、阻害剤により先ず小胞体ストレスが起こり、この結果オートファジーが誘導される事を実験的に確定している。小胞体ストレスは糖尿病や神経死との関わりで何回か紹介したが、異常たんぱく質の小胞体での蓄積等により小胞体がストレスを受けると起こる反応で、その際オートファジーが誘導される事も知られている。この結果に基づき、オートファジーを抑制するハイドロオキシクロロキン、あるいは小胞体ストレス誘導シグナルの阻害剤をBRAF阻害剤と組み合わせると、薬剤抵抗性のがん細胞を殺せる事が示され、新しい治療法の可能性を期待させる。これだけならただの期待で終わるが、クロロキン剤は網膜への副作用のためあまり利用されなくなっているが、抗マラリア薬として開発され、腎炎や自己免疫病に使用された歴史があり、がん患者さんへ転用する事は容易な薬剤だ。このため既に悪性黒色腫の治療にハイドロオキシクロロキンを組み合わせる治験が開始されようとしていることが論文でアナウンスされている。最終結果が出るには5年はかかるだろうが、中間報告も含めて結果が待たれる。ウェッブで調べてみると、悪性黒色種だけではない。直腸がん、骨髄腫、など様々ながんについて、オートファジー抑制を抗がん剤と組み合わせる研究が始まっている。もしこれらの治験が大成功に終われば、大隅先生の株は更に急上昇する事間違いない。期待したい。
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