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3月11日:東日本大震災と原発事故が残した心の爪痕(3月号Psychiatry and Clinical Neuroscience掲載論文)

2014年3月11日
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前に私が在籍していた理研発生再生科学総合研究センター(CDB)には今激震が走っているようだ。一段落した所で私もこの問題は総括しなければならない。ただまだ新しい資料は揃っていないのでもう少し時間がかかりそうだ。   さて、東日本大震災が襲った時、私はCDBで春のシンポジウムの準備をしていた。地震後シンポジウムを開催するかどうかなど様々な決断を迫られたが、一番困ったのは欧米から招待していた研究者の多くから尋ねられた「日本は原発をコントロールできると思うか」と言う質問だった。電話で答えている最中にも水素爆発をテレビが報じる有様で、多くの研究者が結局来日をキャンセルした。しかしこの程度の事は小さな思い出でしかない。地震、津波に襲われ、その後原発事故で家を追われた多くの人達が今も仮設住宅などで暮らしている。今日紹介するのは、この苦しみを科学的記録として残そうとしている活水女子大、佐賀大医学部の研究で日本精神神経医学会の英語専門誌Psychiatry and Clinical Neuroscienceの3月号にタイムリーに掲載された論文だ。タイトルは、「Trauma,depression, and resilience of earthquake/tsunami/nuclear disaster survivors of Hirono, Fukushima, Japan(地震、津波、原発事故を経験した福島県広野住民に拡がるトラウマと鬱病及び回復力)」だ。研究手法は一般的健康状態及び精神状態を調べるアンケート調査で、地震から9ヶ月後、2011年12月に実施されている。広野は現在原発で働く人の基地Jビレッジがある町で、事故後全住民が退去を余儀なくされた。この調査では仮設住宅に住んでいる人が対象で、子供のいる世帯などは仮設住宅以外に移住するケースが多いため、対象者が58歳と比較的高齢者に偏っている。とは言え、出来る限りこの様な科学的調査を残し、しっかりと論文に残す事は重要だ。サンプリングに問題があるとは言え、結果は予想をはるかに超えている。アンケートからPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が読み取れる人が53%,そのうち医学的症状を示しているのが33%もおられる。更に鬱症状を示す人は6割を超え、14%が重度の鬱病と診断されている。これは1年目の調査で、是非今後も定期的に同じ方々の調査を続けて欲しい。今広野では住民の帰還が始まっている。より決めの細かい調査が大事だ。この様な調査が論文として残ることを行政も積極的に支援して欲しいと思った。この研究の重要な点は、将来へ向けた回復力についても数値化しようと努力している点だ。この結果では、回復力につながる一番重要な要素は雇用で、一人暮らしかどうかや、年齢・学歴などはあまり相関していない。原因か結果かははっきりしないが、よく食べ、よく動く人に回復力が高い。この様な結果は、住民の健康に何が大事かをはっきり示している。ぜひ行政にも生かして欲しい。以前、前ニューヨーク市長が、衛生局の役人に論文を読み、論文を書く事を奨励した事を紹介した。調査は専門家にと大学に丸投げするだけでなく、行政でしか出来ない調査も是非論文として残して行って欲しいと期待している。
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