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3月31日:非小細胞肺がんの新薬(3月27日号The New England Journal of Medicine掲載)

2014年3月31日
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非小細胞性肺がんの原因遺伝子ALKは我が国の間野さん(現東大)達によって特定された。このおかげでこの分子を標的とするファイザー社発治療薬クリゾティニブが開発され、末期の患者さんのがんを大幅に縮小する事が可能になった。しかし治療例が増えるに連れ、ほとんどの症例でクリゾティニブ耐性がんが出現する事もわかって来た。耐性がんは、これまで働いていなかった増殖シグナルががんの増殖に働き始めることにより生まれる可能性がある。この考えで、EGF受容体シグナルを抑制する治療法が開発され試されているが、約10%程度の患者さんにしか有効でない。このため、クリゾティニブ耐性になった非小細胞肺がんにも効く薬剤が待たれていた。今日紹介するのはこの目的でノバルティス社が開発したALK阻害剤セリティニブの第1相、第2相の試験の報告で、マサチューセッツジェネラルホスピタルを中心とする国際チームにより3月27日号のThe New England Journal of Medicineに発表された。タイトルは、「Certinib in ALK-rearranged non-small-cell lung cancer(ALK遺伝子再構成による非小細胞肺がんに対するセルティニブの効果)」だ。研究では投与量を調べる目的の第一相に続き、効果検証への治験へと拡大している。研究では1日400mg以上投与した患者さんについて詳しく報告している。結果は極めで有望で、クリゾティニブの効果がなくなった耐性がんの患者さんも約6割がセルティニブに反応し、がんの増殖が止まったと言う結果だ。今後第三相試験による治療効果の詳しい検証が行われるだろう。今回報告された結果を見ると、完全治癒をもたらす薬剤かどうかは疑問だ。ただクリゾティニブを使った事のない患者さんでは半分近くで25ヶ月間がんの進行が止まっており、これまで以上のより有効な薬剤として第一選択薬になる可能性は大きい。もちろんいい事ばかりではない。副作用についてはセルティニブの方が強いようで、約10%の患者さんが薬剤の服用を中止している。この研究からわかる最も重要な点は、ALK阻害活性がより強い薬剤なら、耐性発生のメカニズムに関わらず耐性がんに効果がある事だ。即ち、耐性が獲得された場合もALKは増殖ドライブに重要な働きをしており、より効果の強い薬剤が発見されればがんをコントロールできる可能性だ。11月13日このページで紹介した様に、同じ事はホルモン療法抵抗性乳がんにも言える。いい標的分子の発見ががん治療の可能性を拡大する事がよくわかる仕事だ。
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