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6月3日:暴露される歴代イギリス王室の病気(5月31日号The Lancet掲載論文)

2014年6月3日
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私は読んでいないが、シェークスピアの戯曲「リチャード3世」では、王を狡猾・残忍な陰謀家でせむしの男として描いているらしい。作り話とする説もあるが、当時の歴史家John Rousがリチャード三世を「体格は小さめで、右肩が上がっていた」と書いていることから、せむしと言うのもまんざら間違いではないように思われていた。リチャード3世はボズワースで戦死、グレイフライアースに埋葬される。我が国では考えられないがその後遺体は発掘しなおされ、その時確かに側彎症があることが確認された。今日紹介するレスター大学の論文は、発掘された遺体のCT検査を行い、3次元画像を再構成、3Dプリンターを用いて脊柱を再現して更に詳しく異常の原因を調べた研究だ。論文は5月31日号のThe Lancetに掲載され、「The scoliosis of Richard III, last Plantagenet King of England:diagnosis and clinical significance(最後のプランタジネット家英国王リチャード3世の側彎症:診断と臨床的意義)」だ。結論は、リチャード3世は確かに側彎症だったが、足を引きずるほどではなく、遺伝的原因や脳麻痺などが原因である可能性はなく、いわゆる学童期に始まる「突発性側彎症」と診断できると言う結果だ。The Lancetでは以前も、ジョージ3世のポルフィリン尿症について詳しい検証を行った論文を掲載している(The Lancet, 366, 332, 2005)。この論文では、ジョージ3世の髪の毛に含まれるヒ素の含有量について調べて、毛髪全体に一様に分布していることから、ポルフィリン症の胃腸症状に対して投与されたアンチモンのなかにヒ素が混入していたと結論している。驚くのは、この毛髪が個人所有された後、オークションで取引され最終的にウェルカム財団の博物館に所有されていることだ。リチャード3世や、ジョージ3世については様々な歴史記述が残っている。これらの記述が正しいかどうか、医学的に確認することは歴史を知るためにも重要だ。とは言え、王の遺体を再発掘し、毛髪を自由取引で博物館展示を許す。イギリス国民と王室の関係は、我が国とは全く違っていることがよくわかる。
カテゴリ:論文ウォッチ
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