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6月23日:神経活動を光に変える(6月19日号Cell誌掲載論文)

2014年6月23日
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これまでこのホームページでも幾度か紹介したが、光を当てて神経を興奮させるOptogeneticsが脳研究で大流行りだ。今日紹介する論文を発表したスタンフォード大学のKarl Deisserothはこのテクノロジーを現在使われる様な形に完成させた生みの親だ。ほかにも3次元脳構造をそのまま組織観察できるようにしたCLARITYと呼ばれるテクノロジーを開発するなど、溢れるアイデアでこれまで出来なかったことを可能し、今やこの分野のスターと言っていい。6月19日号のCell誌に掲載された「Natural neural projection dynamics underlying social behavior(社会行動の背景にある神経投射の自然動態)」とタイトルのついたこの論文では、これまで不可能だった神経投射の活動を記録するための新しいテクノロジーを新たに開発し、社会行動を支配する脳の活動について調べている。この論文のハイライトはもちろん、fiber photometryと名付けられたこの研究室から生まれた3番目のテクノロジーだ。遺伝子工学的に特定の細胞にだけ発現する極めて鋭敏なカルシウムセンサーを、脳内に埋め込んだ400ミクロンの光ファイバーを通して励起し、それによって生まれる光を同じファイバーを通して検出することで、標的とする神経細胞の全活動を高感度に持続的に検出できるようにする技術だ。光ファイバーを含む全ての検出装置はマウスの自由な動きを阻害しないように設計されており、行動に関わる神経活動を研究するには理想的なシステムだ。この研究では、同じケージで育ったマウスに示す社会的行動がどの部位の神経興奮を起こすかこのテクノロジーを用いて調べ、腹側被蓋から側座核と呼ばれる領域に投射する神経が興奮することを確認している。次に、この興奮パターンを見ることで社会行動を予見できるか調べた上で、お得意のOptogeneticsを使ってこの部位に刺激を与え、社会行動を誘導するかどうか確かめている。結果は、この領域を刺激することでマウスの行動を操作することが可能で、この過程に1型ドーパミン受容体が関わることが明らかになった。神経活動の記録や操作は従来電気的に行われて来た。この研究は、これまでの方法が全て光に置き換わった新しい時代の到来を告げるものと言える。それだけではない。研究自体としても、生命活動の記録、記録に基づく予測、そして活動の人為的操作による仮説の確認という3種の神器が全て揃っており素晴らしい。テクノロジーは一見ハイテクに見えるが、実現したい目的があって、それを達成するために必要な最高のテクノロジーを妥協することなく開発する開拓者魂を感じる。CRISPRもそうだが、科学領域での技術開発は止まること無く加速していることを実感する。
カテゴリ:論文ウォッチ
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