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6月24日:難治性ネフローゼ児に対するリツキシマブ治験(6月23日号The Lancet掲載論文)

2014年6月24日
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まだ現役の頃、神戸先端医療財団の井村先生から、The LancetやThe New England Journal of Medicineなどの臨床のトップジャーナルでの日本からの論文のシェアがかなり低いことを聞いていたが、現役を退いてから欠かさず臨床の雑誌にも目を通すようになるとそのとおりだと実感する。しかし治療を求めている患者さんがいる限り、様々な治療法の科学的検証は必須で、雑誌もいい論文が投稿されるのを待っているはずだ。一つの施設が大きくない我が国では、優れた臨床研究を行うためには多くの施設の協力が重要だ。今日紹介する論文は、神戸大学小児科を中心にした共同治験グループが6月23日号のThe Lancetに発表した論文で、難治性のネフローゼ症候群にリツキシマブ(抗CD20抗体)が効果があるかどうかを検討している。タイトルは「Ritsuximab for childhood-onset, complicated, frequently relapsing nephritic syndrome or steroid dependent nephorotic syndrome: a multicentere, double-blind, randomized, placebo-controlled trial(小児期に発病した難治性の再発を繰り返す、あるいはステロイドに依存性のネフローゼ症候群に対するリツキシマブの治験:多施設、二重盲検、無作為化、偽薬対照群を設定した治験)」だ。ネフローゼは小児期に多い腎臓疾患で、病理的にハッキリとした異常がないのにも関わらず高度の蛋白尿により、低タンパク血症や浮腫が起こる病気だ。半分以上の症例でステロイドホルモンがよく効き治癒するが、一部はステロイドホルモンから離脱が難しかったり、離脱しても再発するため、治療法の開発が求められていた。この研究では、この様な難治性の患者さんを厳格に選び、半分にリツキシマブを週1回、4回投与、もう一方には偽薬を点滴している。評価は再発が起こるかどうかで、再発した時点で患者さんは通常の治療に戻るように計画されている。多施設治験にしては最終参加者が全体で48人と少ないとは思うが、結果は明確だ。1年の経過観察で再発しなかったケースがリツキシマブ投与群では6/24, 偽薬投与群では1/24で、再発までの平均日数も267日に対して101日と大幅に改善し、また服用するステロイドホルモンも減らすことが出来る。ここからわかるのは、この治療では完治は困難かもしれないが、再発までの期間は大幅に延ばせることだ。リツキシマブ投与群で白血球減少などの副作用が強く見られているが治療に難儀すると言うほどではなさそうだ。ただ予想通り、この抗体を投与するとB細胞数がほとんど0になり、投与期間中そのまま続く。もちろんこの効果を期待しての治療なので当然なのだが、やはり感染には注意が必要だろう。残念ながら、投与を止めるとB細胞が増加を始め、それに合わせて再発例が出始める。事実19ヶ月までにはリツキシマブ投与例でも全員再発したと記載されている。現在リツキシマブは500mgが20万円と言う高価な薬剤だ。今後更に長期観察を行い、腎不全などを防ぐ効果があったのかなど調べられるだろう。しかしB細胞を消し去る力は絶大なので、今後投与の仕方の工夫など様々な可能性があると思う。残念ながらリツキシマブは米国で開発された抗体薬だ。次は是非我が国発の薬剤の治験についての我が国発の論文を読みたいものだ。
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