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6月12日:オキシトシン:若返りの秘薬?(Nature communications6月10日号掲載論文

2014年6月12日
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オキシトシンは不思議なホルモンだ。ここでも既に媚薬、あるいは自閉症の治療に用いられている例を紹介した。これはオキシトシンが脳に働いて社会性を促進するのに関わると考えられているからだ。ただオキシトシンは脳にだけ働くわけではなく、そもそも子宮収縮を促し分娩を助けているし、乳腺の平滑筋に作用し、乳汁分泌を促進させる。最近の研究をフォローしていないが、脊椎動物でも有額類だけが持つかなり新しく獲得されて来たホルモンだ。しかしオキシトシンの作用はこれにとどまらないようだ。今日紹介する論文は、オキシトシンが筋肉幹細胞の自己再生に関わることを示すカリフォルニア大学バークレー校からの仕事で、Nature Communications6月10日号に掲載されている。タイトルは、「Oxytocin is an age-specific circulating hormone that is necessary for muscle maintenance and regeneration(オキシトシンは年齢に応じて筋肉の維持と再生に関わるホルモンである)」だ。前にも紹介したように、若いマウスと老化マウスの血管をつなぐと、筋肉を含め老化マウスの体内の様々な幹細胞が活性化される。この研究はこの若返り物質を探索することから始まっている。筋肉は一度出来ると再生しないと思っている人もいるかもしれないが、実はれっきとした幹細胞が存在しており、それが無くなると筋肉はやせ細って行くことがマウスの実験からわかっている。この研究は、先ずオキシトシン受容体が筋肉の幹細胞に強く発現していること、オキシトシンは老化とともに血中濃度が1/3にまで減少すると言う観察にはじまっている。この結果が示唆するオキシトシンが筋肉幹細胞に働いて筋肉組織維持に働いている可能性を研究している。結果は予想通りで、オキシトシンを投与すると筋肉組織の減少を止めることが出来る。このメカニズムを調べるために、筋肉幹細胞の組織内、試験管内での増殖を調べると、オキシトシンは増殖促進に大きな効果があり、このシグナルには細胞内のERKシグナル分子が関わることを明らかにしている。さらに、オキシトシンが欠損したマウスでは、筋肉は正常に発生できても、成長後筋組織が早期に減少し始めると言う結果も示されている。この論文を見る限り、少なくともマウスではオキシトシンは筋肉の若返りホルモンと言えるだろう。社会性を上げ、出産授乳を助け、更には筋肉の老化を防ぐとなると夢のホルモンになる。ただあまりうまい話だと、必ず裏があると思うのは悪いクセだろうか。折しも同じ週アメリカ医師会雑誌のJAMA internal medicineに、高齢でスタチンを服用を始めると、身体機能が低下することが報告されていた(JAMA Intern Med, 2014, 2266)。スタチンも一種夢の薬だった。とは言え、やはり私も含めて高齢者の期待に答える話だ。いくらFDAが認めているとは言え、すぐに投与試験とは行かないだろうが、筋肉障害の同じ様なことが人間でも起こるのか、少なくとも血中濃度や、試験管内での反応を調べるのはやさしい。是非研究の進展を期待する。
カテゴリ:論文ウォッチ
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