極めてマニアックな研究で、生物学の研究のプロでもおそらく理解に時間がかかる論文だと思う。研究ではRAG1,RAG2の遺伝子への結合を決めている真性のシグナル配列(RSS)とは別の、RSSに配列が似ているため間違ってRAGが結合してしまうoff target配列を全てリストする方法を開発し、RAGによる再構成はゲノム全体に散らばるoff-target配列と真性のRSS間で起こるが、その範囲は染色体のトポロジーを決めているTADという構造内(http://aasj.jp/news/watch/3533参照)に限局されるようになっており、これが抗体遺伝子再構成が他の領域を巻き込まない理由であることを明らかにしている。さらに、再構成の相手を選ぶ時の方向性がCTCFと呼ばれる分子が結合する遺伝子配列の向きによって決められていることを明らかにしている。わかりやすく図式的に言うと、真性のRSS配列に結合したRAG1,RAG2はCTCFが決める方向性に従って遺伝子をたぐって相手方を決めるが、TADの境界を決めている場所に来ると手繰り寄せが止まり、それ以上進展されないようになっている。この時、どの部位と実際結合するかはおそらくIGCR−1領域のノンコーディングRNA存在と深く関わっており、この部位を欠損させると再構成される領域が強く抑制されるという結果を示している。この分野の研究者が他の領域に移っていく中で、Altは抗原受容体遺伝子再構成のメカニズムを極め、新しい普遍性を持った領域を開拓しつつあると実感する論文だった。 結局分野の違う人にはわかりにくい話だったと思うが、読んでみてここまでわかったのかという感慨を持つと共に、抗原遺伝子再構成というマニアックな領域が、ガンやCRISPRまで巻き込む、本当は多くの普遍的重要性を含んだ分野になってきたと私は確信した。若い人は「関係ない」と決めつけず、ぜひ一度論文を手に取ってほしいと思い紹介した。
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