過去記事一覧
AASJホームページ > 2015年 > 11月 > 19日

11月19日:生まれた順序は兄弟の性格に影響を及ぼすか?(11月17日号米国アカデミー紀要掲載論文)

2015年11月19日
SNSシェア
年下の兄弟・姉妹と比べると、第一子は共通の様々な性質を持つと長く考えられてきた。私も長男の一人だが、この通説に科学的根拠がどこまであるのか気にしたこともなかった。というのも、第一子には親も手をかけるし、第2子のように最初から競争相手がいるわけでもない。一方、年長者としての責任も子供ながらに感じるはずで、別に科学的検証がなくても、このような影響がでるのはなんとなく当たり前だと思ってしまう。しかし、この命題も検証すべきと考えた科学者は何人もいたようで、科学的検証の最初は、周りの科学者に第一子が多いことに気づいてそのことを発表したGaltonの100年前の論文にさかのぼる。その後何回もこの命題は検証されてきており、おおむね第一子は知力が高く、外交的で、責任感があるという通説が支持されてきた。今日紹介するドイツ・ライプツィヒ大学からの論文は現在利用できる出生コホート・データベースを使って統計的にこの通説を検証した研究で11月7日号の米国アカデミー紀要に掲載された。タイトルは「Examining the effects of birth order on personality (出生順の性格に及ぼす影響を調べる)」だ。これまでの研究では、同じ家族の兄弟の性格を同じ研究者が調べていることが多く、どうしても先入観が入ること、そして対象としている人数が少ないこと、などの問題があるという反省から、この研究では英国、米国、ドイツの出生コホートからサンプルを抽出し、そこで行われた知能テストや性格検査をもとに兄弟・姉妹間の比較を行っている。また、家族内で比べる調査と、家族をこえて出生順で比べる調査の両方を行い、純粋に出生順の影響を検出しようと努力している。また対象は、家族内で比べる調査が3256人、全体では17030人と十分な数に達している。さて結果だが、知能テストの結果は出生順に低下するが、その差はたかだかIQにして1.5程度だ。それ以外は、外向性、心理的安定性、闘争性、寛容性、そして想像力全ての点で全く差がないという結果だ。ただ、家族内で比べた時、IQの差は少し広がるのと、第二子が闘争性が高いという結果になる。いずれにせよ大きな差ではないので、結論としては出生順が性格や知能に影響するという通説は支持できないことになる。この結論は子供の性を分けて調べても同じで、母親が女性であるという影響もないようだ。これまで長男であるということで少しは負い目を感じていた私だが、この統計を見て安心した。
カテゴリ:論文ウォッチ
2015年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30