今日紹介する論文は治験を推し進めているロックフェラー大学がMolecular Psychiatryに発表した論文で、認知症治療としてのリルゾールの可能性をさらに裏付け、治験への期待をさらに高める目的で行われた動物実験だ。タイトルは「Age and Alzheimer’s disease gene expression profiles reversed by glutamate modulator riluzole (年齢やアルツハイマー病による遺伝子発現プロフィールはリルゾールで元に戻る)」だ。
研究では老化による海馬の遺伝子発現変化と、リズロール投与による遺伝子発現変化を比べ、老化で低下する96種類の遺伝子がリズロール投与で上昇し、また老化で上昇する240種類の遺伝子がリズロールで低下することを発見している。次に、リズロールで変化する遺伝子群をそれぞれの機能をもとに分類して、変化する神経細胞過程を、アルツハイマー病で変化する過程と比べると、神経の軸索投射やシナプス活動など多くの過程で逆相関が見られることを発見している。このことは、アルツハイマー病や老化により進む様々な神経細胞過程の変化をリズロール投与が元に戻せることを示している。
ただ残念ながら、老化マウスに投与して実際に変化を戻すことができるかについては、データが思い通りになっていないのか、示されていない。もちろん変性が進んでしまうと、この薬も効かないことは十分ありうる。したがって、異常の少ない時点から長期に投与する研究が必要だろう。しかし、代わりに余分なグルタミン酸を処理してくれる遺伝子EAAT2に絞って老化マウスでみられる低下を抑えることができるか調べ、老化マウスでもEAAT2の発現を強く上昇させられることを示している。従って、進んだケースでも、グルタミン酸毒性による細胞変性は防げるかもしれない。 結果はこれだけで、実際に効果があるかどうかについては同じグループが進める治験の結果を待つ必要がある。ただ、老化により進む全体的な異常にもしグルタミン酸による神経過剰興奮があるなら、期待は持てるような気がする。すでにALSで利用されており、治験へのハードルも低いだろう。今後注意深くウォッチしていこうと思っている。
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