3月4日:ゲノム不安定性による胎生致死は胎盤の炎症によるものでテストステロンや抗炎症剤により抑えられる(Natureオンライン版掲載論文)
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3月4日:ゲノム不安定性による胎生致死は胎盤の炎症によるものでテストステロンや抗炎症剤により抑えられる(Natureオンライン版掲載論文)

2019年3月4日
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DNAが複製される時、2本鎖DNAはMCM2〜7の6種類の分子が集まって形成されるヘリカーゼにより解かれながらそれぞれの鎖が複製される。こうしてほどかれた複製中のDNAを複製フォークと呼んでいる。このヘリカーゼの機能異常は複製時のストレスを誘導し、その結果ゲノムの不安定性が生じる。この結果、癌が発生したり、細胞質内でDNAを感知し炎症反応を誘導するGAS-STINGを刺激、炎症が起こることが知られている。

MCM2-7複合体の各コンポーネントは互いに機能をうまく補っているため、一つの分子に変異が起こってもマウスは発生して生まれてくるが、それぞれが組み合わさった変異が起こるとヘリカーゼ機能異常によるゲノム不安定性が高まり発生途上で致死になる。この時、不思議なことにこれはメスだけに起こることが知られている。

今日紹介するコーネル大学からの論文は、ゲノム不安定性は両性で起こるはずなのに、なぜメスだけが致死的になるかを調べた研究でNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Female-biased embryonic death from inflammation induced by genomic instability(ゲノム不安定性の結果メス特異的に見られる胎生致死はゲノム不安定性により誘導された炎症が原因)」だ。

メスの胎児のみが致死になる原因として真っ先に考えられるのはX染色体の不活化がうまく行かない可能性だが、X染色体に導入した蛍光遺伝子で調べると正常に不活化が起こっているので、この可能性は否定される。

もう一つの可能性は、Y染色体が存在すること自体が胎児死亡を防いでいる可能性だが、これはXXで性が逆転するよう雄を決定するSry遺伝子をX染色体に導入することで、胎生致死を防ぐことができるので、Y染色体自体ではなく、結局雄であること、男性ホルモンが胎児が死ぬのを防いでいることがわかった。

そこで、MCMの複合変異を持つ胎児を妊娠している母マウスに男性ホルモンを注射すると、生存率を大きく改善することができた。あとは、テストステロンを起点に、マウス胎児の生存を伸ばす分子メカニズムを探索し、

  • MCM複合変異によるゲノム不安定性によりDNA損傷が上昇すると、GAS-STING経路が活性化され、胎盤で炎症が起こる。
  • この炎症は、オスではテストステロンによって誘導される、IL-10により抑えることができるが、メスではテストステロンが分泌されないため、炎症がそのままになるため、胎生致死になる。
  • このプロセスは、DNA複製時のフォーク形成の異常が起こると、MCM以外の変異でも発生する。
  • そしてIL-10の代わりに抗炎症剤イブプロフェンでもメスの胎生致死を防ぐことができる。

すなわち、ゲノム不安定性というとすぐにゲノム上の問題だけに起因すると思ってしまうが、実際にはDNA損傷を感知するGAS-STINGを介する炎症がその原因であることもあるというレッスンになる。謎解き型の典型といえる研究で読む方は面白い。

折しも3月7日号のCellに国北京の国家重点拠点のグループが、このGASがアセチル化されることでその機能が抑制され、分裂時に起こるDNAの変化に反応して炎症が誘導される心配はないが、DNA損傷によりアセチル化が外れることで免疫反応が誘導される事、そしてアスピリンがこの脱アセチル化を抑制できることを示している(Dai et al, Acetylation Blocks cGAS Activity and Inhibits Self-DNA-Induced Autoimmunity 176, in press, 2019: https://doi.org/10.1016/j.cell.2019.01.016)。すなわち、自己免疫病がDNA損傷で起こるメカニズムは、今日紹介したヘリカーゼ異常でメス胎児が死亡するのと共通性を持っている。アジュバントもそうだが、ますます細胞内での核酸断片の作用の理解が重要になってきた。

カテゴリ:論文ウォッチ