3月31日 食塩を感じるサーキット(3月27日Natureオンライン掲載論文)
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3月31日 食塩を感じるサーキット(3月27日Natureオンライン掲載論文)

2019年3月31日
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顧問先の研究員の人に面白いと勧められて、英国人Bee Wilsonが児童の食について書いた「First Bite: How we learn to eat」を読んでいる。子供の食に関する100年以上にわたる実験や調査が紹介された良書だと思う。その中にイスラエルの医師Jacob Steinerが赤ちゃんの表情をビデオに撮りながら、甘み、苦味、酸味、そして塩などで舌を刺激し、それぞれの基本の味に対する反応を調べた実験が紹介されている。予想通り甘味には舌舐めずりと喜びの表情、苦味には惨めな表情を、そして酸味に対しては口をつぼめたが、おそらく嫌がって泣くのではないかと予想した塩味に対してはほとんど反応しなかったらしい。

この結果から、生命に直接関わる塩味は単純な感情とは異なるサーキットがあるのかななどと思っていたら、カリフォルニア工科大学の岡さんの研究室から、塩味を感じる脳のサーキットに関する研究が3月27日オンライン出版されたNatureに発表されていたので、早速読んでみた。タイトルは「Chemosensory modulation of neural circuits for sodium appetite(食塩を求める神経回路の化学感覚的調整)」だ。

ナトリウムは身体のホメオスターシスに最も重要な成分であり、もちろんこれまでもNaを感じる化学感覚の研究は多く存在している(私は読んだことはないが)。ただ、上に紹介したSteinerの論文からもわかるようにNaの直接刺激がどのような感情を誘導するのかははっきりしていなかった。

この研究では味覚受容体から直接刺激を受ける延髄の孤束核と連結しているpre-LC(青斑核の前に存在する小さな神経細胞の集まり)に焦点を絞って、これまで明確でなかったNaに対する欲求を調節する中枢があるのではないかとあたりをつけ、Na飢餓に陥るとpre-LCの中で体内麻薬の一つprodynorphinを発現する神経細胞が興奮することを突き止めた。

これがわかると、あとはこの分子を発現するpre-LCM神経を狙った光遺伝学などの遺伝子操作を用いてこれらの神経細胞の機能を調べることになる。詳細を省いて結果をまとめると、

  • Pre-LCが刺激されると、Naに対する欲求が高まる。この興奮は、Naの飢餓状態で起こる。
  • Na飢餓によるPre-LCの興奮はマウスには不快で、それを避ける行動をとる。すなわち、Na飢餓になると不快感が増して、その結果Naを摂取する。
  • Pre-LC刺激は、舌からでの味の刺激を受けた孤束核からの刺激で即座に抑制できる。しかし、胃に直接Naを投与したり、Kでは変化がない。すなわち、味わったことに反応して不快感がなくなるという回路を形成している。
  • また、不快感やその記憶に関わる分界条床核から抑制性の神経投射を受け、外部の化学刺激を内部の感覚と統合している。

話は以上だが、子供が塩を舐めさせられても、それ自身は興奮を抑えて不快感を収めているのだとすると、子供が大きな興奮を見せなかったSteinerの実験結果は当然だと納得した。

カテゴリ:論文ウォッチ