3月6日 膵臓癌を論理的に制御する薬剤の組み合わせ(Nature Medicineオンライン版掲載論文)
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3月6日 膵臓癌を論理的に制御する薬剤の組み合わせ(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2019年3月6日
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ゲノム研究が進んでも、膵臓癌は私たちの努力をあざ笑うかのように治療の最も困難なガンとして、医学に立ちはだかっている。実際、膵臓癌のゲノム研究論文を読むと、ドライバーとガン抑制遺伝子が組み合わさって発癌する典型といえるガンで、ほとんどのガンがRasの変異をドライバーとして使っており、p53などのガン抑制遺伝子の機能異常も多くの症例で見られる。また、Ras変異とp53変異を組み合わせることで、マウスでも膵臓癌を発生させることができる。とはいえ、RasやRasの下流のシグナルを抑制してもビクともしないことが多い。これまでの研究で、この原因がRas経路が阻害されると、本庶さんの前にノーベル賞を受賞した大隅さんが発見したオートファジーが活性化され、ガン自身で細胞死を免れるためでなないかと考えられるようになっていた。

今日紹介するユタ大学からの論文はこの可能性を証明し、オートファジーを阻害することで膵臓癌を論理的に治療する可能性を示した論文でNature Medicineにオンライン出版された。タイトルは「Protective autophagy elicited by RAF→MEK→ERK inhibition suggests a treatment strategy for RAS-driven cancers(RAF-MEK-ERKシグナル経路阻害により防御的オートファジーが誘導されることからRasをドライバーとしているガンの一つの治療選択を示唆している)」だ。

この研究ではオートファジーが促進しているか低下しているかを、オートファジーが起こって酸性の環境になっても蛍光を発する赤の蛍光とオートファジーが起こると消えるグリーンの蛍光を指標にして、モニターできるようにした細胞株を用いて定量できるようにし、まずRasをドライバーとするガン細胞株のRas経路を抑制すると、オートファジーが促進されることを確認している。そして、このオートファジーの促進が、LKB1-AMPK-ULK1のリン酸化や脱リン酸化を介して起こっていることを示している。

オートファジーを誘導する完全なプロセスが解析されたわけではないが、これらの結果はRas経路を止めて、オートファジーを抑制するとガン細胞を殺せる可能性を強く示唆している。そこで、Ras下流のMEK阻害剤トラメチニブを用いてRas経路を止めた細胞のオートファジーをクロロキンで抑制すると、期待通りがん細胞の増殖をつ色抑えることができることを明らかにした。クロロキンはオートファジー以外の経路も抑制できるので、遺伝的にオートファジー特異的に低下させられる方法を用いて同じ実験を行い、トラメチニブの効果を抑制しているのがオートファジーであることを明らかにしている。

また、マウスに癌を移植する実験系で、トラメチニブとクロロキンの同時投与でがん細胞の増殖を強く抑えることができることを示している。

ここまでだけなら普通の研究で、これまでも指摘されていたことだが、あまりにも効果が明確なので、著者らは実際の患者さんでこの結果を確かめようと、一般的な化学療法に全く反応しなくなった膵臓癌の患者さんを選び、トラメチニブの量は固定して、患者さんのガンマーカーを見ながらクロロキンの量を増やしていく治療を行い、なんとクロロキンの濃度あ1200mgを超えた時、急速にガンマーカーが低下し、CTで転移癌の大きさが減少した後、4ヶ月経過してガンが抑えられたままの患者さん1例を症例として示している。

もちろん正式な治験を経ないとこの治療が有効とは結論できないのはわかるが、万策尽きた患者さんで急速にガンの縮小が見られたこと、4か月再発がないことから、かなり期待できるのではと直感する。また、治療自体が論理的なので、条件さえ合う患者さんなら、かなりの効果が期待できるような気がしている。最近クロロ菌ではなく、より特異的なオートファジー抑制薬剤が開発されてきていることを考えると、こうして症例が示されたことで結構興奮する論文になったと思う。

このように、本庶さんのガンのチェックポイント療法だけでなく、大隅さんのオートファジー研究もガンをはじめ様々な病気の標的として大きく医学に貢献していることがよくわかる。

カテゴリ:論文ウォッチ