3月15日 新生児オスとメスの遊び方の違いは、ミクログリアの貪食の程度が決めている(4月17日号Neuron掲載予定論文)
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3月15日 新生児オスとメスの遊び方の違いは、ミクログリアの貪食の程度が決めている(4月17日号Neuron掲載予定論文)

2019年3月15日
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生殖細胞も含めオスとメスの基本的違いは性染色体上の遺伝子により決定されるが、発生が進むと、様々な違いは性ホルモンにより決められる。例えばつい先日紹介したNatureの論文では、複製の失敗によるDNA損傷により誘導されるGAS-STING経路を介する炎症をテストステロンにより抑えることから、DNA損傷が起こりやすい遺伝異常を持つマウスでは、炎症が抑えられないメスだけが胎生致死になるという意外な結果を報告していた(http://aasj.jp/news/watch/9813)。

今日紹介するメリーランド医科大学からの論文もテストステロンの予想もしない効果のおかげでラットの子供の遊び方に見られるオスとメスの差が生まれることを示した面白い論文で4月17日号のNeuronに掲載予定だ。タイトルは「Microglial Phagocytosis of Newborn Cells Is Induced by Endocannabinoids and Sculpts Sex Differences in Juvenile Rat Social Play(ミクログリアの貪食は内因性カンナビノイドにより誘導され、子供ラット社会での遊びかたを形作る)」だ。

このグループは以前から子供ラットのオスとメスの遊び方が違うことに気づき、このような現象にかかわる扁桃体を組織学的に調べていたところ、新生児期の扁桃体内にみられるできたばかりの脳細胞を貪食しているミクログリアの数がオスとメスで大きく異なっていることに気が付いた。そこで、この違いとオスとメスでの遊び方の違いが相関するのではと考え、まずオスの貪食ミクログリア増加の原因から探っている。

その結果、オスでは2種類存在するカンナビノイド受容体(大麻成分に対する受容体)の両方に結合するリガンド2-arachidonoylglyucerol (2-AG)がテストステロンによって扁桃体内で上昇していることがわかった。そして、この2AGによりオスのミクログリアの貪食活性が上がることを示している。

そして驚くことに、貪食活性が高まったミクログリアは、なんと新生児脳で発生してきたばかりの神経細胞を食べてしまう。この結果、オス、あるいはテストステロンを投与されたメスでは新しくできた細胞が減ることになる。

新生児期に分化してきた細胞の運命を調べると、そのほとんどが扁桃体の背側後方のアストロサイトへと分化することがわかる。実際、ミクログリアに貪食された細胞はアストロサイトの分子マーカーを発現している。

この結果、テストステロンの作用を受けた扁桃体ではシナプスの形成に関わるアストロサイトの密度が低下し、その結果神経活動が高まり、メスより活発に他の個体と遊ぶ行動につながっている。

話は以上で、テストステロンだけでなく、カンナビノイドの促進剤や、阻害剤で扁桃体のミクログリアの活動を調整できることや、発生したばかりの神経細胞の貪食シグナルを抑制することで、アストロサイトへ分化する細胞が貪食されることがオスとメスの差になっていることも示している。大変意外なシナリオだ。

しかし、ミクログリアの活性だけで、新生児期の脳構造が変化するとは、大変面白い話なのだ。しかし脳のどこででも起こるのではなく、扁桃体など極めて局所的にだけ起こるようだ。一方、テストステロン、ミクログリア、神経幹細胞、アストロサイトと役者を見ると、脳のどこにでもいていいはずで、なぜこのような特異性が出るのか、まだまだシナリオは完成できていないと思う。この論文も、性ホルモンの作用が細部に及ぶことを教えてくれた。

カテゴリ:論文ウォッチ