3月20日:注意欠陥・多動性障害(ADHD)に三叉神経刺激が効果がある(Journal of American Academy of Child and Adolescent Pychiatryオンライン掲載論文)
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3月20日:注意欠陥・多動性障害(ADHD)に三叉神経刺激が効果がある(Journal of American Academy of Child and Adolescent Pychiatryオンライン掲載論文)

2019年3月20日
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実を言うと、小学校の頃学校から児童相談所に行くよう言われた覚えがある。当時は、児童相談が始まったばかりで、目的は覚えていないが、ひょっとしたら授業に集中しないなどの傾向があったのではと思う。今でも一つのことより、同時にいくつものことを並行してやる癖があるので、ADHDと言われても仕方がないかもしれない。当時は自閉症スペクトラムやADHDなどの概念が確立していなかったためか、その後特に指導を受けるというまでには至らなかった。

しかしわが国でもADHDの児童の数は増えており、5%近くに達しているのではないだろうか。小児のケースが多いため向精神薬を簡単に処方することは難しい。一方、私も神戸で発達障害児を対象に診療を行っている今西先生のクリニックを見学させてもらったが、一人の児童に長い時間をかけて行動治療を行なっているため、いまや新患の予約は3ヶ月以上待つ必要があるらしい。このように、薬剤以外の方法での個別治療には医師とスタッフの数が圧倒的に足りない。

そこで期待されているのが、電気や磁気を用いて症状を和らげられないかという試みで、様々な可能性が試されている。中でも期待されているのが、三叉神経刺激で、ここから最終的に大脳皮質へと神経が伝わることで、ADHDが改善すると考えられている。実際、この治療はテンカンやうつ病に使われ、以前紹介した音でアルツハイマー病を治すのと同じ発想だが、神経科学的メカニズムはまだまだわかっていないと言える。従って、治験を科学的に進める以外に評価の方法はない。これまでのオープンラベルの治験でいい成績が出ているが、よく計画された臨床治験が求められていた。

そこで今日紹介するカリフォルニア大学ロサンゼルス校のグループは、この三叉神経刺激の治療効果を無作為化二重盲検試験で確かめようとした研究でJournal of American Academy Child and Adolescent Psychiatryオンライン版に掲載された。タイトルは「Double-Blind, Sham-Controlled, Pilot Study of Trigeminal Nerve Stimulation for ADHD (ADHD治療のための三叉神経刺激の二重盲検かつ偽処置群を対照にした試験研究)」だ。

この研究では、医師により厳格に診断されたADHD患者さんを最終的に62人リクルートし、無作為に三叉神経刺激群と非刺激群にわけている。三叉神経刺激は、ワイヤーで両側のこめかみにはる電極を通して刺激を与える装置を装着させ、2-3mA、120Hzの刺激を30秒ごとに流している。これを4週間続ける。偽処置群も基本的にこめかみに電極を貼るところまでは同じだが、実際の電流は出ない。実際、この程度の電流ではあまり何かを感じるというほどではないようだ。

さて結果だが、ADHD-RSスコアと呼ばれる指標で見ると、最初の1週間で急速にスコアは改善し、あとは4週間まで緩やかに低下する。一方、偽処置群も最初の1週間は少し改善が見られるが、もちろん刺激群には及ばない。そして1週間以降はほとんど変化がなくなる。

面白いことに、脳波検査でほとんどの周期レンジで、脳波の活動が刺激群で高くなるが、偽処置群ではほとんど変化しない。したがって、三叉神経刺激は神経活動を高めることができるのがわかる。しかしながら、これまでの研究では効果があるとされていた、実行能力や、睡眠の改善などは認められていない。

もう一度結果をまとめると、以下のようになる。

  • このような機械刺激の治療研究では、常にプラシーボ効果を念頭におく必要があること。
  • 三叉神経刺激は、ADHD-RSスコアを中程度に改善することができる。
  • 安全性は高い。
  • 三叉神経刺激は大脳皮質まで投射路を通して活性化し、その結果として脳波の振幅が高まる。
  • 医師による診断でははっきりとした改善が見られるが、親の印象では、刺激群も非刺激群もあまり改善したとは実感されていない。

厳密な統計手法でかなりいい結果が出たという結論になる。今後この効果がどの程度続くのかなど、臨床試験が進められると思う。

個人的に一番気になったのは、医師の診断でははっきりと改善が見られるのに、親の評価ではほとんど改善を認めていない点だ。簡単にこれを解釈するのは問題があると思うが、ADHDの難しさを強く認識した。

カテゴリ:論文ウォッチ