塩分のとりすぎは認知症の原因の一つになるが、これはすべて高血圧などの血管疾患の結果起こる循環血液量の低下によると考えていた。ところが今日紹介するコーネル大学からの論文は、塩分が認知症を誘導するのは、循環血液量の低下を介してではなく、Tauタンパク質をリン酸化することで脳内に沈殿させ、アルツハイマー病に似た同じメカニズム(Tauopathy)で認知症を誘導することを示した研究で、10月23日号のNatureに掲載された。タイトルは「Dietary salt promotes cognitive impairment through tau phosphorylation (食塩の摂取はTauタンパク質のリン酸化を介して認知障害を促進する)」だ。
研究では最初から食塩を多く取るとTauタンパク質が沈殿するという仮説を出して、これを検証するところから始めている。マウスに普通より8−16倍の食塩を摂取させ(人間の摂取量に換算すると12−20g)、その後様々な時期に脳内のTauタンパク質のリン酸化の有無を生化学的、組織学的に調べている。結果は著者らの予想通りで、皮質や海馬で摂取を始めて4週間と早い段階からTauタンパク質のリン酸化が見られる。また、リン酸化により切断された短い沈殿型のTauタンパク質の蓄積も進むことも確認している。そしてこれに並行して12週ぐらいから認知機能の低下が認められた。ただ、アルツハイマー病と違い、アミロイドβの蓄積は認められていない。すなわち、純粋なTauopathyが塩分摂取により誘導されることが示された。
はっきり言って、この発見がこの論文のすべてで、全く予想外の結果だ。通説にとらわれずになんでも確かめることの重要性を示している。次に、塩分摂取によりなぜTauリン酸化が起こるのか、生化学的過程についても調べている。その結果、高い塩分の食事はNO産生を低下させ、これが神経細胞内のカルパインニトロシル化を抑制してカルパインを活性化、その結果CDK5が活性化され、Tauをリン酸化する経路を特定した。これに基づき、NO産生を高めるためアルギニンを同時に摂取させると、Tauリン酸化を抑制でき、またNOの生産が低いマウスでは、高い塩分とは無関係にTauリン酸化が亢進することも明らかにした。以上の結果は、脳でのTauリン酸化の引き金はこれまで考えられていたような食塩による血管障害で、ただ脳血液循環により認知症が起こるのではなく、血管障害がTauopathyを誘導し認知症が起こることを示している。
以上がシナリオだが、このシナリオを決定的にするため、Tauの欠損したマウスに高い塩分を摂取させる実験を行い、Tauが存在しないと全く認知症は起こらないことを示している。
もしこれが正しいとすると血管性とされてきた多くの認知症でもTauopathyが起こっている可能性を示す。これについては、PETを使って確かめられるので、ぜひ新しい目で認知症を調べなおしてほしいと思う。