12月8日 脳海綿状血管奇形の発症機序(11月27日Science Translational Medicine掲載論文)
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12月8日 脳海綿状血管奇形の発症機序(11月27日Science Translational Medicine掲載論文)

2019年12月8日
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遺伝的原因、すなわち疾患に関わる遺伝子が特定されていても、実際の病気の発症機構を明らかにするのは難しいことが多い。今日紹介するペンシルバニア大学からの論文はまさにそんな典型といえる研究ではないだろうか。脳海綿状血管奇形(CCM)と呼ばれる病気の発症機序についての研究で11月27日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Distinct cellular roles for PDCD10 define a gut-brain axis in cerebral cavernous malformation (脳海綿状血管奇形発症においてPDCD10は腸管―脳軸に特殊な役割を果たしている)」だ。

CCMの8割は特に遺伝的要因がないが、残りの2割は家族性があることが知られ、これに関わる遺伝子が現在3種類明らかにされた。それぞれは様々なシグナルに関わるアダプタータンパク質で、血管形成時のシグナルが異常になり奇形が発生すると考えられているが、わかってないことの方が多い。そんな中、今日紹介する論文のグループは、生後新たに発生してくる脳静脈瘤などの異常がCCMタンパク質の欠損で抑制が効かなくなったMEKKシグナルによること、そして血管内皮のMEKK分子が腸管からのグラム陰性菌由来のLPSが脳に到達することで発生することを証明した(Tang et al, Nature 2017: doi:10.1038/nature22075 )。

今日紹介する論文ではCCM1−3までの別々の変異のうち、CCM3(PDCD10)変異の患者さんだけ、発症が早く病状が重いのかを追求している。

まず血管内皮にだけ変異を導入して、血管内皮内でMEKKを抑えているという点では3種類のCCM分子は全く変化がないことを確認した上で、脳の血管障害を促進する要因を探索し、腸管上皮のバリアーが敗れると、脳血管増殖が高まることを明らかにする。

この結果から、PDCD10が血管内皮だけでなく、腸上皮のバリアー機能に関わっている可能性を着想しこれを追求している。すなわち、血管内皮だけでなく、腸上皮にPDCD10を欠損させると、血管内皮だけで欠損した時と比べると異常の発症が促進される。しかし、他のCCM分子が欠損してもい血管内皮での欠損異常の変化は起こらない。

次にPDCD10欠損により腸内で起こる変化を調べると、腸管内での粘液層の形成が阻害される。 以上の結果から、PDCD10は腸管の粘液分泌と血管内でのMEKK阻害の両方に関わるため、欠損によりグラム陰性菌からのLPSが全身に循環してしまい、異常が早く起こると結論している。実際、これを確かめるため、腸内の粘液層が壊れる処理を行うと、同じように異常が促進されることを示している。

結果は以上で、様々な場所で働く一つの分子の機能が、CCMという病気で一点に集まってしまい、不幸な結果を招くということが明らかになった。ただ、この結果から、遺伝子異常がなくても、腸のバリアーが壊れると、脳や網膜での血管内皮の異常が誘導される可能性も示唆しており、今後の広がりもあるような予感がする。

カテゴリ:論文ウォッチ