これまでを振り返ってみると、最後の決断に当たってあまり人の意見を聞くタイプではなかった。そのためか、人の意見を聞きたがる人を見ると、この人は本当に他人の意見を参考にしようと思っているのか?あるいはポーズだけなのか?と疑ってしまう。 自分の意見の基準を形成していく過程で、多くの他人の意見が取り込まれているが、そうした歴史を通じて生まれた基準は余程のことでないと揺るがない。
今日紹介するロンドン大学からの論文は私たちが判断に当たってどのように他人の意見を取り入れているのかを調べた研究でNature Neuroscienceにオンライン出版された。タイトルは「Confirmation bias in the utilization of others’ opinion strength (他人の意見を尊重する程度は自分の確信に関わっている)」だ。
人間を用いた研究で最も重要なのは課題の設計だ。この研究では必ず二人がセットとなって、行動課題を行う時に機能的MRI検査による脳の変化を調べている。このとき、それぞれの参加者にとって、もう一人の判断は他人の意見としてインプットされるようにしている。
もう少し具体的に述べると次のようになる。
- 同じ不動産物件とその値段を見せて、実際の値段は高いか低いか判断した上で、この判断にお金をかける。この時自信があれば掛け金を増やすと考えられる。
- 一度判断と掛け金を決めた上で、同じ課題に対する相手の判断と掛け金を聞かせる。そして、最後に相手の意見を知った上で最後にいくらかけるかを決めさせる。
この課題ではっきりしたのは、相手の判断(値段が高いか低いかの判断)が自分と同じ時、相手の掛け金の額は最後の決断に影響するが、異なる判断の場合ほとんど気にしない。具体的には、同じ意見だった場合、相手の賭け金が高いと、より自分の判断の正当性に確信を持って、多くのお金を賭ける。一方、意見が分かれると、相手の賭け金額に応じて最初の判断をほとんど変えることはない。要するに、他人が自分の意見と同じ時だけ、他人の意見を聞く傾向が私たちにはあることがはっきりする。
その上で、ではこの判断に関わる脳の領域を探索し、これまで判断を変化させるときに活動が変化することが知られていた内側前頭前皮質後部(pMPFC)が相手の意見を考慮するときに変化することを突き止める。
すなわち、pMPFCの活動は相手の判断が自分と異なる場合は、賭け金の額に反応しない。ところが、相手の判断が同じ場合は、相手が賭けた額が低いと強く反応し、相手の額が高いと安心するのか反応が低下する。
結果は以上で、判断の調整に関わる脳領域は、相手の意見をなんでも聞くのではなく、あくまでもこれまで脳内に形成した判断基準に基づいて相手の意見がそれと合致したと判断された時だけ、相手の意見を正確に拾って判断の参考にすると言う結果だ。
回りくどくてわかりにくかったかもしれないが、要するに他人の意見を参考にするのは、それが自分意見と同じ時だけと言う結論だ。
言われてみれば納得で、わたしも反対意見の論文はなかなかしっかり読む気にならないことは確かだ。一方、この傾向が社会の2分化を進めることも確かで、今世界各国の政治がそのような状況に陥っている。どう克服できるのか、悩ましい問題だ。