7月14日 タンパク質同士を共有結合させて分子機能を阻害する方法(7月9日号 Cell 掲載論文)
AASJホームページ > 2020年 > 7月 > 14日

7月14日 タンパク質同士を共有結合させて分子機能を阻害する方法(7月9日号 Cell 掲載論文)

2020年7月14日
SNSシェア

最近アムジェンが開発したK―RAS阻害剤の特徴は、化合物が変異アミノ酸と共有結合して離れなくなることで(https://aasj.jp/news/watch/11638)、化合物のアフィニティーは低くとも、十分な阻害活性が得る事ができる。同じ標的と共有結合する薬剤は広く普及しており、現在使われている薬剤の3割にも及ぶようだ。

今日紹介する広州にある南方医科大学からの論文は、同じ原理をタンパク質同士の反応に応用しようとした面白い研究で、こんなことも可能なのかと膝を打った。タイトルは「Developing Covalent Protein Drugs via Proximity-Enabled Reactive Therapeutics(結合により可能になる共有結合型タンパク質薬剤)」だ。

この研究では現在ガン治療に広く使われているPD-1,PD-L1の結合阻害を目的に、抗体とは異なる治療法を開発しようとしている。そのために、PD-1のPD-L1結合部位の近くに、特定のアミノ酸が近くに来ると共有結語する人工アミノ酸(fluorosulfate-l-tyrosine)を導入することから始めている。実際には、新しいコドン、tRNA を設計して、翻訳時に人工アミノ酸(FSY)が決められた場所に挿入できるようにする大掛かりな方法でFSYをPD-1に導入している。

このアミノ酸は、リジン、ヒスチジンに近接すると共有結合するように設計されており、もちろん分子内のリジンなどとも反応するので、どこに挿入するかには立体構造に基づく正確な検討が必要だが、この研究ではPD-L1結合サイトに近接した129番目のアミノ酸としてFSYをど運輸した時、最も効率にPD-L1にPD-1が共有結合できることを示している。

この結果がこの研究の全てで、あとは動物モデルでFSYを導入したPD-1が、標的PD-L1に結合することで、T細胞上のPD-1の機能を阻害できるか確かめている。

結論的には、ヒト大腸ガン細胞株を移植した実験系で抗PD-L1抗体より優れたガン抑制効果を示すこと、また免疫系をヒト化したマウスを用いた腫瘍移植実験でも同じように抗PD-L1抗体より優れた効果を示すこと、さらに腫瘍特異的CAR-Tを用いたガン治療システムでも、CAR-Tの疲弊を抑えて治療効果を高めることなどを示している。

そして最後に、アフィニティーなどの問題から、未だ未だ抗体を置き換えるまでには至っていないアフィボディーにこの技術を導入することで、HER2にアフィボディーを共有結合させられることを示している。

結果は以上で、アフィボディーについてはガン抑制実験結果は示されていないが、本来のタンパク質同士の相互作用を利用して、この結合を共有結合で固定してしまう方法が可能であることが示された。抗体と異なり、本来の分子結合を利用する方法なので、細胞表面上での相互作用なら短い開発期間で、阻害剤を開発できることから、今後発展する予感がする。

カテゴリ:論文ウォッチ