7月17日 細胞レベルの老化を探る(7月15日号 Nature 掲載論文)
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7月17日 細胞レベルの老化を探る(7月15日号 Nature 掲載論文)

2020年7月17日
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バーコード技術と単一細胞遺伝子解析技術を組み合わせたsingle cell RNA sequencing (scRNAseq)は、これまで器官や組織としてトップダウンに眺めてきたシステムを、細胞側からボトムアップに見ることを可能にした。その結果、発生、ガン、感染症など様々な状態を、全く新しい目で定義することが可能になっている。

今日紹介するマウスに存在する細胞のscRNAseqデータを集約するためのスタンフォード大学を中心にしたコンソーシアム、The Tabula Murisからの論文は、このマウスの細胞アトラスを異なる年齢で作成し、老化による変化を調べた研究で7月15日号のNatureに掲載された。タイトルは「A single-cell transcriptomic atlas characterizes ageing tissues in the mouse(単一細胞のトランスクリプトーム解析によりマウス組織の老化の特徴を明らかにする)」だ。

研究は単純で生まれてから、0、1、3、18、21、24、30月齢と異なる年齢のマウスから23種類の臓器を取り出し、細胞浮遊液を作成、scRNAseqを行い、この全てを一つの図上に展開したTabula Murisを作成する。結果、このテーブルでは細胞が由来した組織と年齢については色分けされており、これにより同じ血液細胞でも臓器別に遺伝子発現から特徴を調べることができる。

膨大なデータが集められたことは間違いなく当然紹介しきれない。そこで、論文としてまとめるために、幾つかの例に注目してこのテーブルの有用性を示したというスタイルになっている。その中の面白いと思った点だけ紹介しておく。

  • 老化とともにp16を発現した静止期の老化細胞がほとんどの臓器で蓄積している。これと並行して、抗老化遺伝子としてよく知られているsirtuinファミリー分子の発現している細胞の割合が低下する。(これまでも紹介してきたように、このような老化細胞を積極的に除去するsenolysis治療の有効性を示しているように思える。)
  • 例えば膀胱を例に比べると、老化とともに上皮細胞の割合が上昇し、逆に間質細胞の割合が低下する。これを反映して、コラーゲンなどのマトリックス形成遺伝子の発現が低下、一方で上皮細胞の遺伝子が上昇する。間質細胞の減少に伴い血管の量が低下するが、それでも浸潤血液細胞の数は増加する。(血管も含めた組織を支えるストローマ細胞が老化により疲弊する一方、慢性炎症は続くと言える)。
  • もちろん上皮細胞自体も低下する器官も存在する。例えば腎臓では、血管系の減少だけでなく、メサンジウム、細尿管などの現象がみられ、これらが老化に伴う腎臓機能の低下の背景にある。
  • リンパ組織では、T細胞の割合が低下し、逆にB細胞や形質細胞の数は上昇する。一方抗原受容体の多様性を調べると、TもBもクローンが老化とともに増加し、多様性が低下する。
  • どの細胞で最も大きな変化が見られるか調べると、脳と腎臓の存在する免疫細胞で最も大きな変化が認められる。特に脳では、この変化を担うのはミクログリアで、老化の影響を強く受けることがわかる。

他にも多くの変化の例が示されているが、省略する。これまで描いていたイメージと特に変わることはなく、老化した細胞が蓄積することと、慢性炎症が老化の重要な要素であることが確認できたが、これを詳細にわたって解析するための一つの基盤が提供されたと言っていいだろう。多くのアイデアがこのテーブルから生まれることを期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ