7月24日 MeCP2分子の機能を支える相分離 (7月22日号 Nature  オンライン掲載論文)
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7月24日 MeCP2分子の機能を支える相分離 (7月22日号 Nature オンライン掲載論文)

2020年7月24日
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このブログを読んでいただいている方から、紹介する論文を毎日どのように選んでいるのかよく聞かれる。特に基準はなく、何編か読んでみて自分が面白いと思った論文を選んでいる。と言っても、「面白い」程度も様々で、どの論文にしようかいつも選択に迷っている。

そんな中で、タイトルを見た時から明日はこの論文と思える論文に当たることが年に数回はある。面白いを超えて、興奮してしまう論文だが、今日紹介する両巨頭Rudolf JaenishとRichard Youngの研究室からの論文は、そんな例で、今日は論文選びに時間はかからなかった。タイトルは「MeCP2 links heterochromatin condensates and neurodevelopmental disease (MeCP2はヘテロクロマチンの濃縮と神経発生異常を結びつける)」だ。

著者の中のRudolf Jaenischは現役時代親しくしていたが、彼のライフワークの一つがメチル化されたDNAに結合するタンパク質、MeCP2の変異により起こるレット症候群の研究だと思う。最近の研究で、MeCP2がヘテロクロマチンと呼ばれる閉じられた構造の染色体に濃縮していることが明らかになり、なぜメチル化DNA結合性という非特異的な性質が、レット症候群やMeCP2重複症のような特異的症状につながるのか少しづつわかってきたが、MeCP2のヘテロクロマチンへの濃縮に、相分離と呼ばれる特定のタンパク質が濃縮された液滴を形成する現象(白い画面に分子が集合して画像が形成される液晶をイメージしてもらえればいい)が関わることを見事に示したのが、この研究だ。

読んだ時からYouTubeのジャーナルクラブで紹介しようと決めたので、使われた方法などはその時に詳しく紹介することにして、ここでは結果だけを要約する。

まず生きた細胞を観察して、ヘテロクロマチンがMeCP2や、やはりヘテロクロマチンに存在するHP1分子が周りから相分離してできた液滴であることを確認してから、MeCP2自体が液相の中で相分離する性質を持っており、この性質はメチル化DNAを加えることで高められる(より大きな相分離した液滴を形成する)ことを、試験管内で示している。すなわち、メチル化DNAと結合することでMeCP2の相分離が誘導され、HP1などを巻き込んで遺伝子発現が抑制されるヘテロクロマチン染色体構造が形成される。

メチル化DNAへの結合能が失われると、相分離能が消失するのは、相分離をメチル化DNAが媒介するからだが、相分離のためのタンパク質の相互作用を媒介する領域がIDR-2と呼ばれる領域で、この部位が失われると相分離能が消失する。

重要なのはMeCP2が相分離してできる液滴に、同じヘテロクロマチン分子HP1は合体・同化することができるが、転写が活性化される部位(ユークロマチン)を決めるMED1やBRD4などは液滴から排除されることから、MeCP2がヘテロクロマチンとユークロマチンの境が曖昧にならないように分離していることがわかる。

そして、レット症候群で見られる突然変異は、メチル化DNA結合部位と、IDR-2領域に限定されており、患者さんで見られる変異があると、相分離能が低下し、ヘテロクロマチン形成が障害される。さらに、これまでレット症候群で見られる転写異常や染色体構造異常を全て相分離で説明することができることを、いくつかの変異について丁寧に実験的に説明している。ただこれらについては、ジャーナルクラブの時に回したい。

以上が結果で、相分離の概念が、決してマニアックな話題ではなく、病気の理解に大きく貢献するとともに、相分離を定量的に調節することで病気の治療が可能であることも示唆しており、本当に興奮した。

この研究ではMeCP2重複症についての説明は全くないが、おそらく新しい治療標的も含めて、今後理解が進むと思う。例えば、MeCP2はユークロマチンにも結合していることが知られているが、この領域のメチル化DNA濃度だけでは相分離がおこるほどMeCP2分子の濃度が上がらないと考えてみよう。もしそうなら、重複症では普通ならユークロマチン状態が維持されている領域にヘテロクロマチンが形成され、遺伝子発現が低下する可能性も考えられる。素人でも色々考えられるのだから、RudolfやRichardがより詳しい説明を実験的に示してくれるのも時間の問題だろう。期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ