2月1日 細菌を学習して将来に備えるホストの機構(2月4日号 Cell 掲載論文)
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2月1日 細菌を学習して将来に備えるホストの機構(2月4日号 Cell 掲載論文)

2021年2月1日
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友人のリクエストで、2月15日から2回/月のペースで、岡崎さんと細菌叢についてのジャーナルクラブを行うことにした。今や腸内細菌叢という言葉が、一般にも市民権を得るだけでなく、食品コマーシャルのキーワードとして頻繁に使われている。医師として患者さんに向き合う中で、XXヨーグルトで免疫力を高めたいのですがなどと問われると、コマーシャルは信用できるのか心配になるのも当然だ。

この分野の論文を読んできた半専門家の立場から見ると、腸内細菌叢は今も最も重要な課題のひとつだが、研究のブームという点では下火になった印象だ。というのも、便を採取して遺伝子を調べ、統計解析を行えば何らかの結論が出ると言ったタイプの現象論的研究はもはや見向きもされなくなり、課題を明確にし、明確な因果性を求める研究が求められる様になったからだろう。このためには、高い研究能力が求められる。

今日紹介する米・国立アレルギー感染病研究所からの論文は、腸内細菌叢の研究が変遷しつつあることを示す好例として是非ジャーナルクラブで取り上げたい研究で、2月4日号のCellに掲載された。タイトルは「Infection trains the host for microbiota-enhanced resistance to pathogens(感染は宿主を病原性細菌に対する抵抗性を高めるための訓練になる。)」だ。

この研究の課題設定は、「病原性細菌を一度経験すると、細菌特異的免疫とは別に、病原性細菌に対する抵抗力が獲得できるか?もし獲得できるならそのメカニズムは?」と明瞭だ。

まず院内感染で問題になる常在菌、肺炎桿菌を選んでマウスに摂取させると、2日も経つと腸内から自然に駆逐されるが、先に抗生物質で腸内細菌叢を壊しておくと、長期間肺炎桿菌感染が成立する。すなわち、細菌叢自体が肺炎桿菌の腸内での増殖を抑えることを確認する。

ここまでは従来の現象論と一緒で何も面白く無い。因果性を調べるためには、まず感染を抑える細菌叢を形成するための条件と、その細菌叢が病原菌を抑える機構を特定することが現在では求められる。この研究では、弱毒化したエルシニア菌を感染させると、エルシニア菌が消失した後も、肺炎桿菌への抵抗力が備わった細菌叢が形成できるという実験系を確立し、抵抗力を持った細菌叢とは何かを探索している。

感染による訓練を受けなかった細菌叢と比べ、いくつかの細菌種が増殖していることを確認しているが、現在ではこれだけでは相手にされない。細菌叢の全ゲノム解析から、感染を経験した細菌叢ではタウリンや硫酸塩を亜硫酸塩に分解する酵素系が高まっていることを突き止める。これを手がかりに、メタボローム解析を行い、感染を経験した腸内ではタウリンが著明に上昇していることを確認する。そして、感染により肝臓に炎症が起こると、胆汁分泌が上昇、その結果腸内でタウリン量が上昇し、これがタウリンを利用する細菌の数を増加させて、病原菌への抵抗力を高めるということが明らかになった。

これを確かめるため、今度はタウリンを摂取させる実験を行い、腸内に細菌叢が存在する場合のみタウリン接種により、病原細菌に対する抵抗性を獲得した細菌叢が形成できることを示している。

ではタウリンを代謝できる細菌の増加がなぜ病原菌への抵抗力を付与できるのか?詳細を省いて結論だけを紹介すると、タウリンから分解された亜硫酸塩が細菌の呼吸機能を抑えて、感染を防いでいる。

結果は以上で、結論となるとちょっとしょぼいかなとは思うが、細菌感染の記憶他、獲得免疫や自然免疫だけでなく、細菌感染は胆汁、タウリン、タウリン分解細菌、そして分解された亜硫酸塩を介して行われることを示して、細菌叢研究が「免疫力」などといった薄っぺらい言葉では語れない分野であることを示している。

2月15日から友人の参加も得て、もう一度細菌叢研究を考える中で、この様な複雑な知識を、一般の人を騙さない、しかしわかりやすい知識にするには何が必要かも考えていきたい。

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