2月23日 epitope spreadingでチェックポイント治療の効果を高める(2月17日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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2月23日 epitope spreadingでチェックポイント治療の効果を高める(2月17日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2021年2月23日
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昨日まで2回にわたって、これまでガン治療の最後の手段だった免疫チェックポイント治療(ICI)を最初に持ってくる方向が間違いなく将来の標準になる可能性について紹介した。この順番が定着すると、最初に問題になるのは、ICIが効かない人が、PD-1+CTLA4の併用療法でも半分以上おられる点だ。しかも、StageIIIになると、この時の結果が予後を左右する点だ。すなわち、治療可能性の宣告が早々に下ってしまう。これを回避する唯一の手段は、腫瘍に対する免疫を高め、ICIの確率を高めることになる。

このためにはICIをスタートさせる前に、ガン特異的ネオ抗原に対して免疫を行い、キラーT細胞のレパートリーを高めることになるが、今日紹介するハーバード大学からの論文は、ネオ抗原だけでなく、それに釣られて起こる自己免疫反応、すなわちepitope spreadingもガン治療に利用できることを示した研究で2月17日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Epitope spreading toward wild-type melanocyte-lineage antigens rescues suboptimal immune checkpoint blockade responses (正常メラノサイトの抗原へepitope spreadingが起こることで免疫チェックポイント反応を至適レベルに高められる)」だ。

ICIの副作用は、免疫反応の閾値を下げるため、普通なら抑制されている自己免疫反応が高まることだ。面白いことに、メラノーマの患者さんにICIを行うと、かなりの数の人に白斑が生じることが知られている。同じ治療を受けても、肺ガン患者さんでは起こらない。このことは、メラノーマに対して免疫反応が始まると、epitope spreadingが起こって正常メラノサイトの発現する抗原まで標的になっていることを示している。

この研究では、実際これがepitope spreading によるかどうか調べる目的で、ICI治療の効果があった患者さんと、効果がなかった患者さんで、色素細胞が正常に発現する分子に対するキラー細胞が誘導されているか調べ、ICIの効果があった患者さんのみ正常抗原に対するT細胞が誘導されていることを確認する。

もしepitope spreadingが起こるなら、免疫の成立していないガン細胞でも、まずネオ抗原を増やしてガン免疫を高めてやれば、自然にepitope spreadingが起こってICI治療が可能になると考えられる。そこでICIに反応性の低いメラノーマをUV照射し、ネオ抗原を高めて免疫する実験を行い、これによりネオ抗原だけでなく、正常抗原に対しても反応が拡大し、UV照射を受けていないガンに対してもキラー細胞が誘導できることを示している。もともとUV照射はランダムに変異を誘導することから、ネオ抗原を持つ細胞の比率はバラバラで、ネオ抗原だけに免疫が成立しても、ネオ抗原を持たない腫瘍が増殖してしまうが、epitope spreadingが起これば、全てのガンを殺す可能性が出てくる。

メラノーマの場合はUV照射は選択肢だが、他のガンの場合に使える方法を開発する目的で、最後にablative fractional photothermolysisと呼ばれる、簡単に言えばレーザーで焼き切る方法で腫瘍の一部を壊して抗原を吐き出させると共に、TLR7を刺激する薬剤で自然免疫を高めることで、腫瘍抗原に対する免疫反応からepitope spreadingが起こって、ガンを治療できるか調べている。

結果は期待通りで、複数のガンが存在するセッティングで、一つの場所でこの処理を行い、ICI を行うと、他の場所に存在するガンも消失する。実際、正常抗原に対するキラー細胞も誘導されており、epitope spreadingが起こったことを示している。

他にもいろいろ実験が行われているが、以上が主要な結果で、epitope spreadingはICIがfirst lineの治療になったとき、効果のある患者さんを増やすために、切り札になる可能性を示している。

少し余談になるが、ワクチンには必ず必要な自然免疫の活性化により、ひょっとしたらepitope spreadingが起こって、後々自己免疫病が発症しないかは、免疫学者の頭をよぎったことは間違いない、もちろんRNAワクチンの場合、そのことは考慮済みで、自然免疫にキャッチされないmψ1という人工核酸をウリジンの代わりに用いて自然免疫を抑える工夫が行われている。

面白いことに、このRNAワクチンで話題のビオンテックは今年7月NatureにICIの効かなくなったメラノーマ患者さんに、4種類の正常色素細胞が発現する抗原のRNAを導入して、ICIの効果を半分の患者さんに誘導できたという論文を発表した。

このとき使われたのは、人工核酸ではなく、ウリジンを持つ自然のRNAで、これが強い自然免疫を誘導することで、ガン免疫を再度復活させることができた。この結果は、ビオンテックがこの分野でノウハウを蓄積した優れた会社であることを示すと共に、epitope spreadingを人工的にRNAワクチンで起こせること、さらに必要に応じて自然免疫を起こすことが強い免疫には必要なことを示している。

効果と副反応は表裏一体で、どちらかだけをみて何かを結論する愚だけはマスメディアも避けてほしいと思うし、RNAテクノロジーの歴史を勉強しないで、このワクチンについて語るのもやめてほしいとつくづく思う。このHPでは2017年からビオンテックを紹介しているが(https://aasj.jp/news/watch/7088)、今や専門家も含めて日本国民がまだかまだかと首を長くして待っている技術の重要性は、とっくの昔にわかっていた。

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