2月13日 ネアンデルタール人の脳をどこまで再現できるか(2月12日号 Science 掲載論文)
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2月13日 ネアンデルタール人の脳をどこまで再現できるか(2月12日号 Science 掲載論文)

2021年2月13日
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ドイツマックスプランク研究所のペーボさんたちによりネアンデルタール人のゲノムが明らかになってから、彼らの形質について様々なことを理解することができた。もちろんゲノムだけから形質を特定することはまだ難しいが、幸いネアンデルタール人由来の遺伝子は私たちのゲノムに多型として流入しており、多型の違いによる形質の差を利用できる。一方で、この様な流入の見られない遺伝子の機能を調べることは簡単ではない。

今日紹介するカリフォルニア大学サンディエゴ校からの論文は、ホモサピエンス特異的なゲノム多型を探し出し、ネアンデルタール人やデニソーワ人などの古代人との多型と、iPSを用いて機能的に比べた研究で2月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「Reintroduction of the archaic variant of NOVA1 in cortical organoids alters neurodevelopment(NOVA1遺伝子の古代人型変異を脳皮質のオルガノイドに再導入することで神経発生を変化させる)」だ。

この研究では脳に発現してスプライシングに関わることがわかっている遺伝子NOVA1に、ほぼ全てのホモサピエンスに存在するが、ネアンデルタール人、デニソーワ人などの古代人や、他の動物には存在しない、アミノ酸配列の違いを発見し、次にクリスパー遺伝子操作を用いて古代人型配列に変化させたiPSを作成し、iPSから誘導した脳オルガノイドを用いて、機能的違いがないか探している。古代人が出てくるため話が大きくなってはいるが、実際行われているのは、NOVA1遺伝子の200番目のアミノ酸がイソロイシンからバリンに変わったらどうなるかという話だ。

おそらく結果は予想以上で、脳オルガノイドの増殖が低下しており、できたオルガノイドの大きさが小さい。さらに、オルガノイド表面がスムースでないという特徴を持っていることがわかった。細胞学的に調べると、増殖は高まっているのに、成熟が遅れる特徴を持っている。

この遺伝子はスプライシングに関わるので、それぞれのNOVA1分子のRNA結合について調べている。残念ながらこのレベルでは特に大きな変化は見られていないが、古代人型の分子はオルタナティブスプライシングの起こる、最後のエクソンや、3‘非翻訳領域に結合する傾向が見られている。

この様に直接のスプライシングに関わる機能の差は小さいものの、その効果は増幅されて、最終的に多くの遺伝子の発現の差を生み出している。詳細は省くが、発生や増殖、さらにはシナプス結合に関わる分子に差が出ている。

また、single cell RNA seqを用いてオルガノイド中の細胞を調べると、古代人型では成熟が遅れていることがわかる。

ただこの様な発現解析だけでは機能的差がはっきり分からないので、最後にシナプス結合に絞って様々な探索を行い、

  • 古代人型のオルガノイドのシナプスでは、グルタミン酸受容体を含む重要なシナプス特異的分子の発現が低下している。
  • その結果、オルガノイドの神経間で見られる、シナプス接合が低下している。
  • 神経興奮を生理学的に調べると、興奮自体は古代型オルガノイドで高まっているが、神経同士の同調性ではホモサピエンス型が優っている。

を明らかにしている。

結果は以上で、「ではネアンデルタール人の脳は本当に我々より劣っていたのか」と問うても、答えが出る様な結果ではない。そもそもiPS培養や、分化培養は不安定で、結果がばらつき易い。そのため示された変化のどこまでが、古代人との差を反映しているのかももう少し丁寧に検証した方がいい様に思う。とはいえ、ゲノムをもとに、古代人の機能を少しでも現代に蘇らせることは21世紀の課題だ。その意味で、個人的にはこの研究は高く評価したい。

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